やわらかな丘の波に囲まれたトスカーナの風景に別れを告げ、再び北イタリア・ビエッラへ。 ピエモンテ州で迎える2回目の初夏がやって来ました。 トスカーナに比べてこちらの気温は今も抜群に低め。 フィレンツェでは既に35℃の猛暑だったのに、ビエッラは風もどこかしらひんやりとして、汗をかくことのない心地よい季節を謳歌しています。 そんなビエッラ・アトリエのあるこの場所。 初めて訪れた時は、石壁にアーチの重なる室内の妙に重厚な作りに驚きましたが、実はその昔、修道院だった建物を改装したものらしいのです。 そう言われてみると、半円形の大窓にもなるほど納得。 その旧修道院、現在では大きな1家族が多世帯集合住宅のような形に改装して住んでいるのですが、 なにより驚きなのは、その周囲を囲む巨大な庭。 おとぎ話に出てくる森の緑そして花々の彩りが、人間の力でガッチリ整頓されて輝いているのです。 ヨーロッパと日本のガーデニングの違いはまさにここ。 自由に伸びてゆく木々を制御し、芝を刈り、可愛らしい野の花が咲いていても、雑草だと言ってばっさり抜いてしまう彼らの庭はとても気持ちがいいけれど、 植えられる花々の色合いもどこかひどく規則的で、日本人の私には少し窮屈に思えてしまう。 そして気がつくと、自然の流れにまかせたままのアトリエ前の庭にだけ、様々な初夏の野花が自由気ままに咲きほこっている。 そろそろ芝刈りをしなければならないとは思いつつ、風が運んで来た花々はあまりにも可憐で、なかなか刈り取る気にもなれず毎日が過ぎていきます。 そもそも作っている作品が「自然の草むら」という風景なので、この野花の謳歌した庭はデッサンにも最適。 芝刈りが面倒なわけではないのです。仕事の為に野の花を残しているの…と、 そんないい訳を心の中で唱えつつ、まだもう少し、あともう少しと、一日一日庭仕事の日を延ばしている…そんな6月のアトリエです。 2010年6月8日 緑の謳歌するアトリエ窓より。 高野倉さかえ