7月最後の日。 ジャスミンやラベンダーがトスカーナのような香りを放つ頃 箱根では湖水祭が行われました。 芦ノ湖を染める花火が鮮やかな宵。 今年はブルームーンとも重なり、なんとも神秘的な夏です。 大きな空を埋め尽くす光。 静かな湖水を染める眩しい色の宝石たち。 胸を震わす懐かしい響き。 花火好きの私はいつも感動で泣けてきてしまうほど。 フィレンツェの花火はいつでもどこか物足りない気持ちがしていました。 伝統的な花火師というものがいないのでしょう。 それぞれの花火単体ではそれほど差がないのかもしれませんが、 タイミング、テンポが今ひとつ。 街の紋章であるユリの花が、 その雄しべや雌しべを、フィオレンティーナのチームカラーである紫色に染めつつ空に上がったり、 デザインはとてもオシャレなのですが、なにか退屈を感じてしまう。 そう、観客に息を飲ませるような、これでもか!というあの感覚がないのです。 それは最後のクライマックスでも同じ。 イタリアでは花火ショーのちょうど中間部分で1回、そしてすべて終わると空砲が3回鳴り響き、 集まった観客たちはそれを目安に終了時間を知り、帰り支度を始めるのですが、 考えると日本では、そのような合図にあまり出会いません。 なぜならクライマックスが一目瞭然だから。 最後の最後には、「あァ綺麗だ!」と思った瞬間の景色の 約3倍から5倍ほどの花火が空を埋め尽くしてゆくのです。 その「これでもか!」感が、イタリアの花火には残念ながらありませんでした。 芦ノ湖を染める花火は、心を震わせました。 空だけでなく水にあがる水中半円花火。イタリアのみんなにも見せてあげたいと心から思いました。 この感動があれば、心臓破りの急坂帰り道もきっと耐えられる。 きっと…。 きっときっと…。 ……。 空の上では、ブルームーンが笑っています。 2015年7月31日 祭の宵に。 高野倉さかえ