風に乗って真っ白な霧がやってくる元箱根。 今日はそんな霧の中で絵筆を動かしています。 山々をじっと眺めていると、木々の間から少しずつ、雲のかけらが生まれては空へと登って行く。 その姿はまるで、昼夜を問わずせっせと働く「雲の製作所」のようです。 雲を作る機械はどんな形がいいかな。 そんなことを考えつつ、買い出しの日は下界の街へとコロコロと車を走らせます。 急な右カーブ、ゆるやかな左カーブ、 運転中も世界は雲の中。真白の空気に包まれています。 前後を走る車も速度ががっくり落ちるような視界の悪さですが、 トスカーナでも長く慣れ親しんできた濃霧の世界だから、大丈夫。 ミルクの中を泳ぐような気持ちで、のんびり楽しく進んでいきます。 そんな霧が晴れ、紅葉の色彩が青空に眩しかったある日のこと。 トスカーナで共にキノコ狩りをした友人が作ってくれた「帆船凧」を持って芦ノ湖へ。 イタリアの空を泳いでいたこの凧船も、今度は箱根海賊船と共に、 見たこともないような鮮やかな紅葉を楽しんでいるようでした。 日本人よりも繊細な手つきで製作されたイタリア製の帆船凧。 飛行機の重量制限にひっかからない、軽量のお土産を考えているうちにふと思いついたとか。 しかもこれ、かなり立体的な作りですが、 折りたたみ可能な設計になっていて驚きました。 いつも大荷物の私を気遣い、トランクで楽々運べるようにと考えてくれた仲間に感謝です。 ですが、さらに驚いたのは、その後の出来事。 「今、お持ち帰り用パッケージにしてあげるね。ちょっと待ってて。」 そう言って部屋の奥に入った友人。 しばらくしてから出てくると…コンパクトになった包みが妙に重たくなっている。 紙の凧とは思えないような不思議なずっしり感に「ん?」と思っていると、 ニコニコ顔の友人が胸を張って一言。 「丈夫なテーブルの板2枚で挟んだから、トランク内でぎゅうぎゅう押しつぶされてもへっちゃらだよ♪」 …..テ、テーブル板かぁ…なるほど重いわけです。(笑) 「それじゃ最初のコンセプトが台無しじゃないのよ、パオロー!」 彼女にボコボコに怒られていたあの姿が、今でも心に残っています。 あなたの作ってくれたテーブルの塊、無事箱根に届きました。 雲の白にも似た、やわらかな紙の帆船。 雲の製作所がお休みの日には、芦ノ湖の青空に浮かんでいます。 2015年11月09日 しっとりと秋霧に潤う木々の中で。 高野倉さかえ