透明な風が爽やかに緑の香りを運ぶ季節です。 ヤマガラとシジュウカラ、2つのカップルがせっせと巣作りをしていた木の上のシェアハウスには、 その後ヤマガラファミリーだけが残り、子育てを始めました。 1週間たち、2週間たち、 もっさりとクチバシいっぱいに運び込んでいた巣材のコケが、いつしか虫のようなものに変わった頃、 巣箱の周辺には微かな小鳥の声が響き始めました。 ヒナたちの誕生です。 ものすごい勢いで食料を運ぶ親鳥たちはもう大変。 どこにそんな食料庫があるのか、3〜5分ごとに行ったり来たりの連続です。 そして…風もなくとても暖かいある日の午後。 巣穴からなにかが、ジーっとこちらを覗いている気配が。 ようく目を凝らして見ると、そこには初めて見るヤマガラBabyの顔がチラリ! 「...!!!」 目が合った瞬間、息を飲んでしまいました。 今までまっすぐエサを運んでいた親鳥2羽も、その日はなにやら周囲をうろうろキョロキョロ。 エサを口にくわえたまま、巣箱の屋根に乗ったり、手前の枝にとまったり、周囲の草むらをチェックするような仕草まで。 もしかして…そろそろなのかしら?と思ったその矢先のことです。 「はっ!」 最初の1羽が勇気を振り絞り、ジャンプするように外の世界に飛び立ちました。 その後はまるで後ろ1列に並んでいたように、次から次へポロポロとヒナが飛び出し、 ほんの数分の間に無事6羽全員が穏やかな空へと旅立って行きました。 最後には親鳥が戻ってきて内部を最終チェック。 口にくわえていたエサがもう必要ないことが判明したのか、その場で美味しくご完食。 ピピっと1回鳴くと、子供たちの飛んだ方向へと旅立って行きました。 静まり返った庭の巣箱を見て…こちらは再び胸がキュン。 そして誰もいなくなった巣箱の中を除くと…思わず笑いが。 コケなど自然素材の巣材の中に、断熱材の綿がチラホラ置かれているのです。 そういえばご近所にはリフォーム工事中のお宅が1件。 寒い箱根の風からヒナたちを守ろうと、断熱材をいただいてきていたとは驚きです。 そして翌日。 いつもと同じ朝。そしていつもとまったく違う朝。 胸の高鳴りが止まず、うっかり早朝5時に起きてしまいましたが、木の上の巣箱はやはり静まり返っています。 しかし遠くから聞きなれた声が響くと、心に陽光が差し込んだような気持ちに。 ヤマガラファミリーの姿が、まだ近くに見えるのです。 巣立ったばかりのBabyにいろいろ教えながら、まだ食べ物を分け与えてあげている親ヤマガラさん。 ポヤーンとあどけない表情で、一生懸命羽を羽ばたかせて不器用に飛ぶBabyたちの姿。 ほっこりと、やわらかな暖かさを、こころの奥深くに与えてくれます。 穏やかなしあわせの5月。 庭には芽吹いたばかりの新しい緑に、ツツジの眩しい赤が鮮やかです。 2016年5月24日 高野倉さかえ