「ケーン、ケーン」 物語に出て来る日本のキジは、こう鳴くという。 昔の人にはこう聞こえていたのでしょうか、 どことなく不思議な感じがして、今ひとつピンと来ない気がします。 今まであまり接近遭遇した記憶のないキジという鳥の鳴き声は、 私の中ではいつも、少し鳥離れしたもののような位置づけでした。 そんなある春の日。 「クェーッ!」 響き渡る雄叫びと共に、隣の林に一羽のオスのキジがやって来ました。 「クェーッ!」 ガッツリ窓を閉めていてもその音にビックリしてしまうほど、かなり強烈な音を奏でる美しいファジャーノ。 初めてその声を聞いた時は、いったい何事かと思ってしまいました。 熟睡していた猫も飛び起き、かなりビックリ顔。 窓の外を覗いてみると、 そこには目が覚めるほど派手な色合いの大きな鳥が、美しい姿勢で立っているではありませんか。 素人目にもすぐにわかる。この派手さはオスに違いない。 背筋をピーンと伸ばしたその姿のまばゆいこと! 今日はいいものを見てしまった。ちょっぴりにやけながら、その日を終えました。 それからというもの、そのキジはいつもここにいます。 「クェーッ!」 今日も激しく鮮やかな色合いで、スックと地面の上に立っている。 どうやらここに住み着いてしまったよう。 そういえばこのキジ、いつも地面の上にしっかりと両足をつけていて、 飛んでいるのを見たことがありません。 野生なので、近づこうとすれば逃げるけれど、 選択肢は早歩きか猛ダッシュかの2つだけ。 いっこうに飛ぶ気配がないのです。 やや気になって調べてみると、どうやらキジは飛ぶのがかなり下手な鳥らしく、主に地上で暮らすとか。 なるほど、だからいつも地面に立っている姿ばかりなのか!とようやく納得。 その日はちょっとした謎が解けた気分で、なにやらスッキリ終了しました。 そして翌日のこと。 今年マイナス14度という寒波ですっかりやられてしまった庭の荒れ具合を整理していると、 突然、すぐ近くで大きな音が。 「クェェェーッ!」 またあの彼かと地面を見ると、おや?誰もいない。 「カェェェーッ!」 今度は頭上で声がしました。 なんと!今日は高い枝の上にそびえ立っているではありませんか! そしてその姿の…なんと美しいこと‼︎ あぁ、やっぱり鳥なんだわ!枝の上がものすごく似合う。 慌ててカメラを取りにアトリエに戻り、走ってその場に戻ると、 私のダッシュに驚いたキジは、なにやら慌てた様子で隣の木に飛び移ろうとして、コケてしまいました。 「…な、なんて不器用な鳥なんだろう。。」 呆れる私をよそに、 彼はその後も枝でバランスを取り損なって「おっとっと!」となったり、 羽の一部がツルに絡まってしまったり、 その美しいカラーリングからはまるで想像もつかないようなズッコケっぷり。 可愛さが満ち溢れていて、思わず笑ってしまいました。 そして心の中で秘かに応援。 不器用なこのキジに、早くいい彼女ができますように。 良かったらこの庭で子育てしてもいいよ〜。 「キェェェーッ!」 本当に昔のキジは「ケーン、ケーン」と鳴いていたのでしょうか? 今日も元気に、変わったキジの声が響き渡っています。 2018年4月3日 高野倉さかえ