雨上がりのある日。 久し振りに顔を見せたお陽さまは ふんだんに水を吸った大地を ゆっくりと そしてのんびりと乾かしてゆき 光の中に、ゆらゆらとスチームが立ち昇ります。 かなりワイルドになった庭先を歩くと ふと、白いものが私の目をひきました。 あれ?こんなところに白い花...あったっけ? 地面を低く這うその花は、クリスマスローズくらいの大きさ。 数日間振り続けた、大量の雨に激しく打たれたせいなのか 少しだけ下向きに咲いていて、正面顔がよく見えません。 ちょっと上を向いていただこうと手を差し伸べると チクっ! 驚いた花の方はちいさなトゲで応戦です。 それほど凶悪ではないものの その緑の細い茎は、少し下向きに曲がる細かいトゲたちに守られており 手に取るにはやや抵抗が。 そしてどうしても花のお顔を拝みたい私は まるで藪に身をひそめる猫のように 地面スレスレに、低く低く 体を丸めながら目線を下げてゆきます。 こんな体勢のところにどなたか訪ねて来たりしたら、きっと驚いてしまうことでしょう。 自分の庭の中とは言え、大の大人がこれでいいのか?とも思いつつ しかし純粋な興味にすっかり負けて 地面近くで這うように、白花の正面顔に目を凝らします。 至近距離から、ようやくこんにちは。 見つけた瞬間の印象では、花の中心部分の重たそうな感じが ついクリスマスローズに似ているような気がしてしまいましたが 目の前で見るその花は、 クリスマスローズよりももっと薄くやわらかな印象で 雰囲気的にはノイバラを連想させます。 5枚の花びら、細長い葉、そしてトゲとこの花の雰囲気... バライチゴです! 毎年、暖かい季節を迎えると、一斉に開き始める黄色い小花たち。 それが6月のこの時期ともなれば、無数に実をつけ 庭の地面に赤い水玉模様を描き出します。 そんなヘビイチゴは、ネーミングの響きもさることながら 食用には全く誰もオススメしないイチゴ。 花も果実も見た目はこんなに可愛いのに!と 今まで残念に思っておりましたが バライチゴの登場となれば、話は別です。 やや酸味があるとはいえ、十分に熟せば甘みだって期待できるとの噂。 果実ができた暁にはいよいよ実食かな?と、今後に期待を膨らませます。 そして思い出す、トスカーナの田舎町。 燦々と降り注ぐ暑い太陽の光に 砂ぼこりが上がるほど乾燥した大地を踏みしめて歩くと そこには様々な野生のイチゴがたくさん待っていました。 中でも豊富に出会えたのはラズベリーにブラックベリー。 一歩歩いては食べ、また一歩歩いては食べる。 森へと続く田舎道散歩は、自然の恵みに満ちていて それはそれは楽しいものでした。 あの風景に近づけるだろうか? このワイルドな庭も? お陽さまの下で楽しむ、ナチュラルな野イチゴ園。 そんな夢をみる、ある6月の晴れた朝です。 2020年6月17日 久々の陽光が眩しい、緑のアトリエより。 高野倉さかえ