夏になると思い出す。 キ〜ンと冷えた、麦茶の味。 セミの声。 太陽をたっぷり浴びた、黄金色の香り。 そしてお酒の全く飲めない私の体は、子供の頃も大人になっても この季節になるとほぼ、麦茶と梨で出来ているようなものでした。 イタリア生活時代。 バカンス王国のその国は 学校はもちろんのこと、大人の夏休みもそれはそれは長いものでしたが ハイシーズンの夏に日本へお里帰りすることは私には皆無でした。 それはもちろん、航空運賃が倍以上に膨れ上がるから。 同じ曜日の、同じ時間の便に乗ってもこのお値段っ! あまりの価格の違いに腰を抜かし 日本の夏は蒸し暑くて大変だから、そうよこれでいいのよ〜と自分に言い聞かせながら 夏の間中、いつもイタリア国内に残って過ごしておりました。 そこで思い出すのが、そう、懐かしの麦茶の味です。 それはもう、まるで毎年恒例の夏の行事。 あぁ、なぜ前回のお里帰りの時に買って来なかったのだろう! すっかり忘れてしまった自分を悔やみます。 それほどよく飲んでいた麦茶も、不思議なもので 夏が去ると同時に頭の中から消え去ります。 なので、祖国への久々の帰国の季節には スッキリさっぱり、記憶の中から消え去っているのです。 しかしそのイタリアにも、気がつくと麦茶的なものが身近にあったのです。 気がつくまでに少し時間がかかってしまったのはそう、その姿があまりにも異なっていたから。 「今日はカフェインレスにしようかな」 学校帰りのコーヒータイム。 BARと呼ばれるカフェのカウンターに並ぶ友人がある日、エスプレッソ以外のものを注文しました。 その名は caffè d’orzo (カフェ・ドルゾ)。 運ばれてきたそのちいさなカップは、私の注文したエスプレッソとさほど変わりがありません。 その後の指先の仕草は、いつものコーヒータイムと全く変わらず。 ブラウンシュガーの小袋を摘み上げると、カサカサっと軽く振り その3分の2の量をカップの中に。 ちいさいスプーンでクルクル、クルクル。 そして私たちは、おしゃべりに花を咲かせます。 いつも通りのその風景。 しかしその日、カップを手にする友人の姿を見ていて、ふと 脳裏にピカン!と電球の明かりが灯ったのでした。 普段何気なく接していたこのカフェインレス・コーヒー。 でも! ようく考えてみたら、orzo(オルゾ)って大麦じゃないの!と。 ということは目の前にいる彼女は今まさに 濃厚に入れた麦茶に、た〜っぷりとお砂糖を入れて飲んでいるのだと。 カフェインレスの健康エスプレッソ的なイメージであったorzoの立ち位置が たちまち私の中でグ〜ンと跳ね上がったのです。 その日の夜。 普段家では飲まなかったorzoを片手に帰宅しました。 これをお湯で淹れ、冷蔵庫で冷やせばほぅらこの通り! あの懐かしの麦茶が簡単に飲めるのではないかと。 約1時間後。 少し早いかな?と思いながらも待ちきれず、ニコニコ顔で早速試飲。 …う〜ん。。。似てるけど…う〜ん。。。 やっぱり次回は忘れずにミネラル麦茶を買って来よう。日本から。(苦笑) スパゲティーで焼きそばを試してみたり 細めのカッペリーニをそうめん仕立てにしてみたり 遠い日本を思いながら過ごす異国の夏のキッチンは 苦笑い満載の楽しい(?)場所でした。 2020年8月1日 いよいよ夏の香りの...アトリエの窓より。 高野倉さかえ