雪の季節になりました。 この白く、美しいものが降り始めると 凍える寒さにも関わらず、なぜだか妙に 外に出て大きく深呼吸をしたくなります。 「スゥゥゥ〜、ハァァァ〜っ♪」 空から舞い降りる、やわらかで不思議なこの白いもの。 果てしなく降り続く雪を見ていると、空気が一段と美味しくなります。 目の前に現れる冷たい空のかけらは 吹雪のように真横に流れて来たかと思うと いきなりスローモーションに切り替わったかのように ゆったりのんびりの遊覧飛行になったり そうかと思うと、今度は完全に重さを失ったように ふわっと地面近くから空へ向かって無重力飛行。 片栗粉の袋が破けてしまったような激しい粉雪や モクレンの花びらほどの大きなかたまりの雪のつぶつぶ。 右から左へ、そして左から右へ。そして回転。 ふんわり、くるるんと、自由に踊り続ける真白なかけらたちは 寒さを忘れさせてくれるほど、なんとも美しい姿でやって来ます。 幼い頃から、雪が大好きでした。 その雪への情熱は、何十年もの時を越えても全く色褪せず 大の大人になった今でも、ニコニコ顔で雪だるまを作ります。 いつか完璧な球体の 表面までツルッツルに仕上げられたスノーマンを作ろうと 毎年、毎年思うのですが 制作中に雪の冷たさに負けて両手の感覚がなくなり、挫折します。 そして玄関先には、凸凹頭の雪像が苦笑いでこんにちは。 昔も今も、そんなところまで同じです。 あれはいくつの頃だったでしょうか。 まだ子供だった私の両手にちょうど乗るくらいの、ちいさな雪だるまを作りました。 可愛く出来たことが嬉しくて その雪が溶けてしまうのが悲しくて それを夏まで保存しよう!と試みました。 そしてそのミニ雪だるまは半年もの間 実家の冷凍庫にズドーンと陣取っていました。 氷を取る時、冷凍食品を入れる時 あの冷凍庫の扉を開ける度、母はさぞかし困ったことでしょう。 でもそれを許してくれた母の心の豊かさを、私はなによりステキだと思います。 暖かな季節。 でも冷凍庫を開けると、そこにはスノーマン。 嬉しい楽しい想い出です。 そんな雪の日。 大気はどこまでも遠く澄んで 車通りの少なくなった山には透明な静寂がやって来ます。 森から現れるタヌキの足音さえ聞こえるくらいに。 寒さの中で葉を落とした木々たちの枝に 微かに留まる、雪の花びら。 白の量が増えて来ると、落葉した枝々の形が強調され その先端にはプチプチとした何かが、もう既に膨らんでいることに気付きます。 それは、そう、新芽の膨らみです。 このちいさな膨らみの中からゆっくりと若葉が開き、再び緑の季節が大気を染める。 考えると、ドキドキします。 何もかもが眠っているような雪降る冬の中にも 着々と次の季節への準備は進み これから目覚めるちいさな春の色彩が、そっと息づいているのですね。 「……寒っ!」 風邪を引く前に、そろそろ室内に入ることにしましょう。 雪の美しさに魅了され、寒空に薄着で長居してしまいました。 しんしんと積もる純白の雪。 一方室内では水栽培のサルビアホットリップスが 季節を忘れたように赤々と咲いています。 そして...数日。 サルビアの赤はまだまだ元気にそのまま。 でも窓の外の純白は、雨の中へと消えて行きました。 暦は、もう2月。 今日はいつもより1日早い節分だそうです。 しかもなんと124年振りの! 2021年2月2日 美しい2月の静寂の中で。 高野倉さかえ