大空を覆う雲の姿が多くなり、今年もまた雨の季節がやって来ました。 しかし梅雨入りしてすぐ、不思議なことに晴れの日が続き始め 箱根山では今日も元気に、野生に帰ろうとしている庭のお手入れです。 それは、もう7年も前のこと。 この地での暮らしを始めた頃、庭は野生の緑が生い茂る斜面でした。 家の周囲の、少しだけ整地された場所に土を運び、少しずつ少しずつ平らに土留め。 そこにハーブガーデンを作ろうと計画しました。 そしてある日、セール品として出ていたアンティーク調のアイアンアーチを買い、設置したのです。 花と緑の巻きつく香り高いアーチを夢見て 買ったちいさな苗たちは、スタージャスミン。 ジャスミンとは呼ばれるものの、実はジャスミンとは全く違う種類の唐夾竹桃の白い花です。 アーチの両側足元に植え 早く伸びますようにと願い続けて待つこと数年。 購入当時は15cmほどだったこの花が ようやく1メートルの高さまで育つのに2年ちょっと。 「まだまだ先は長いなぁ」 そうつぶやきながら待つこと...さらに5年。 そしていよいよ本年 緑のアーチは、待ちに待った完成の時を迎えました。 アーチの頂上で、大きく弧を描くように 両側から伸びたツルとツルとが出会い、握手をすることができたこの6月。 花の咲き始めるこの時期、私は満足げな微笑みを浮かべながらアーチの下です。 空を見上げると 伸び盛りのその緑色の、少しカールをした細長いツル達は右へ左へと揺れながら さて、次はどこに巻きつこうかと、空へと手を伸ばしながら掴まる先を物色中です。 その勢いは、近くのアセビにも シンボルツリーのシロシデの大木にも届くレベル。 私がおばあちゃんになる頃には、この庭の樹々が全て このジャスミンもどきの甘い香りに包まれているかもしれない。 そんな想像をしては、日々、そのやわらかな甘い香りを楽しんでいます。 ゆっくりゆっくりと育てた、この花。 思えば昨年、この唐夾竹桃に初めて実がつきました。 アルファベットのVの字を逆さにしたような、細長く奇妙な形を見たときは この枝、一体どこから来たのだろう? と思いましたが ようく見ると、それは細身のサヤインゲンのような構造をしていて 鞘の中には、綿毛のついた種がぎっしり詰まっていました。 花からは全く想像できないその種の形に、かなり衝撃を受けたものです。 あのタネは、どこまで飛んで行ったのでしょう? そして無事、芽を出すことができたのでしょうか? 今年もしまたあのサヤインゲンに出会うことができたら 今度は本格的に、種子の収穫&種蒔きに挑戦したいと密かに考えています。 唐夾竹桃といえば 以前、1本の桃の木の苗を購入しました。 背の高さは、当時50センチ程。 私の背の高さくらいまで伸びてくれたら、いいな。 そう思いながら庭に地植えして、早3年。 この場所を気に入ってくれたのか、それは毎年グングン グングン グングンと衰えを知らずに伸びてゆき 今では4メートル近くになっています。 ただその木の姿は、私の想像していた桃の木とは少し違う。 空に向かってまっすぐに、スパーン!とただただ棒状なのです。 それもこれも、途中剪定をしなかった所為とは思うのですが まさかこんな形に、しかもこんな速度で伸びるとは! 同じ「桃」という字が入っているのに、唐夾竹桃とは大違いです。 そんな形になってしまった木を どのタイミングでどのようにカットすれば良いのでしょうか? 天に向かって垂直に伸びる桃の木を前に、腕組みをして悩み続けます。 そんな時、ふと 見つめている木の中の、手の届かないほど高い位置に 何やらコロっと丸いものを見つけました。 目を凝らして見つめると…どこか見覚えが。 すると心は、一瞬にして記憶の中の時間を数十年遡り 辿り着いた先には、小学生の頃に見た父の梅酒瓶がありました。 「梅〜っ?! …な訳ないか。桃の実の赤ちゃんだ!」 その瞬間、あの諺が脳裏をかすめたのです。 「桃栗三年柿八年」 そして感動します。あぁ、あの諺は本当だったのだと。 緑と花のアーチがようやく完成したということも手伝い それからというもの、今度は桃の実の成長を楽しみに待つ毎日です。 しかし、若い実はついたものの それは待てど暮らせどなかなか大きくならず、熟してきた様子もないのです。 梅の実のような大きさのそのフルーツは、いつまでも青くて固そうな梅の実のまま。 自宅でたまたま成った桃の実だから、それほど大きくはならないにしても なかなか桃色になってくれないのはやや心配です。 そんな時、衝撃的な助言をいただきました。 「これは花桃だから、君が思ってるようなあの桃にはならないよ?」 ...えっ!? 日日是好日。そして日日是学習也。 それは昔も今も、全く変わりません。 2021年6月23日 水を含んだ空気が緑を潤す、アトリエの窓より。 高野倉さかえ