大好きな秋。 山では早くも、朝ぬくもったベッドからなかなか抜け出し難い季節となりました。 今月はいよいよ、昨年見送った健康診断も無事完了。 年々なんとなく低くなって行くような身長測定に対抗するように こっそりと頑張る精一杯の背伸びも忘れません。 空気が冷たさを増すと 大地には私以外にも 空に向かってシュッと背伸びする黄色い花々があちこちに。 セイタカワダチソウの季節です。 この花を見る度、私には毎年、毎年、必ず心をよぎる出来事があります。 それは遠い遠い昔の、ある修学旅行の日。 京都・奈良という、典型的な修学旅行場所に私は立っていました。 当時、私の通っていた高校は自由度が高く 制服に関してもあまり厳しい規則がありませんでした。 紺色のブレザー、ベストとスカート。そしてエンジ色のネクタイ。 基本形は一応決まってはいるものの それをフルセットで着ている生徒は普段は少なく 可愛いレースのついたブラウスやお気に入りのカーディガンを着たり カバンもカラフルなハンドメイド。 ある日ちょっとした気まぐれで、ネクタイまでつけた制服フルセット登校をすると 「今日は一体どうしたんですか?」と 友達はおろか先生にまで聞かれる始末。 楽しい学校でした。 「いいか、みんな〜、修学旅行くらいは制服をキチンと着て来るように。」 旅行前のある日、旅のしおりを配りながらこう言った担任教師の言葉に、教室はざわめきました。 「今から探しておいたほうがいいぞ〜。ネクタイも校章もだからな〜!」 その日の帰宅後、慌てて制服フルセットを探したのは言うまでもありません。 そして当日。 ブレザー&スカートOK。ベストも着たしネクタイも締めた。校章も大丈夫。 よし!忘れ物なし! 京都奈良へと旅立ちました。 学年の生徒全員がネクタイを締めている姿を見るのは、もしかすると入学式以来でしょうか? 新鮮な風景を楽しみつつ、旅は続きます。 制服は着たものの、そのような自由な高校だったので 修学旅行中にも自由行動の機会がたくさん与えられており 少人数のグループでレンタサイクルを楽しんだりもしました。 そして、その忘れられない瞬間が訪れたのです。 広大な野原が見渡す限り、黄色のセイタカワダチソウに染まっていました。 まるで太古の昔から、ずっとこの花が続いているかのような 秋の、美しい風景。 その光景があまりにも素敵で 自分が花に埋もれた写真をどうしても撮りたくなり その名の通り背の高い草花を掻き分け掻き分け、私はグングンと野原を進みました。 「よし、この辺でいいかな。」 振り返ると、待っている友達に大きく手を振って合図。 鳴り響くシャッター音。撮影終了です。 どんな風に撮れてるかな〜とウキウキしながらみんなと合流。 ...その時です。 大変なことに気がつきました。 久しぶりに揃えた紺色の制服が、既に紺色でなくなっている事に! 私の姿はまるで、てんぷら粉をまぶした海老のようにコナコナ。 袖からスカートから どこもかしこもセイタカワダチソウの花粉で黄色く染まっておりました。 よっぽど衝撃的だったのでしょう。 イタリアに暮らしていた20年間、しばらく遠ざかっていたこの記憶も 帰国してこの花に再会した瞬間に、ほぅらこの通り。 以降は毎年、毎年この季節になると まるで昨日の事のように、あの日の風景が蘇ります。 秋の冷たい空気。 野山を駆けめぐる風の香り。 みんなの笑い声と寝不足の日々。そして黄色の花粉に包まれたあの制服。 晴れた秋の日。 山のウッドデッキでは 2年目のサザンクロスが木漏れ日の中で再開花しています。 ✨Buon Autunno✨ 皆さま、素敵な秋をお過ごしください。 2021年10月26日 風のない青空にゆったりと雲がゆく...アトリエの窓より。 高野倉さかえ