白雲木の季節になりました。 真っ白な花々が 流れる雲のようにモクモクと咲き誇るその様子は まさに白雲木の名前にピッタリ! 昔の人々は美しいネーミングセンスをお持ちだったようです。 そんな雨上がりの朝。 しっとりと濡れた庭の緑の中に、眩しい紫が揺れています。 初春まだ寒い時期に植えた赤ちゃん苗たちが無事成長し ニューフェイスの花々がようやくお目見えです。 今回の新人さん第1号。 その名もスクテラリア・バルバータ (Scutellaria Barbata)。 細かな紫の花をたくさんつけるこの植物は 寒冷地のこの庭で最も生存率が高く丈夫な、シソ科の植物です。 一方、同時期に植え付けたゲラニウム・ブルックサイド(Geranium Brookside)は 一見まるで朝顔のような、立派な大輪の青紫をたくさん咲かせます。 ですが花の大きさの割に茎がかなり細いのが弱点で 雨風の激しい山の気候では、花の重さを支えきれずに まるで地面に、花がコロコロと転がっているような伸び方をしてしまいます。 ひょろ長く倒れがちなガウラの花にも支柱をつけ始めるこの季節。 今年はこのニューフェイス・ゲラニウムにも緑の柱を立ててゆきましょう。 6月になると、山を降りるたびに紫陽花の様々な色が目にとまります。 そして、ふと思うのです。 フェレンツェに暮らしていたあの頃 不思議と、あまり紫陽花を見た記憶がありません。 梅雨のないあの地中海の国では 6月というと、もう暑い夏。 山に囲まれた盆地のフィレンツェは もう海に泳ぎに行きたくなるほどの暑さに包まれていて 紫陽花にはあまり適していなかったのでしょうか? それとも私が他の花々にばかり目を奪われていたのかな? そんなフィレンツェ。 日本でいうと京都のような地形のその街は イタリア国内では、比較的蒸し暑い夏で有名な地方でした。 「うわ〜ベッタリ暑いわ〜」 つい最近まで寒い寒いと嘆いていた人々は あっという間に暑さにやられています。 でも東京の夏に育てられた私には 「え?これ蒸し暑いの?」 と、思わず質問してしまうような、まだまだ心地良さの残る夏でした。 「あ〜もうムリ。湿気が重すぎるー!」 イタリア人の友人たちがそう嘆く姿を見る度に もし彼らが東京に降り立ったらどうなるのだろう?と 日本の夏の湿気に驚く彼らの姿を想像しては 大騒ぎのイタリア人達の中で、ひとり謎の微笑みを浮かべておりました。 さて、そんな季節はもうすぐそこ。 今頃あちらでは、青い海がみんなを呼んでいることでしょう。 しかしここ元箱根の緑の中では 日中一番暖かい時間帯でも、20℃台の半ばほどの気温です。 山の空気は下界の街中に比べて断然涼しく 夜はまだ羽毛布団にくるまって眠っています。 そしてそんな6月の山の庭は、どことなく静か。 キジの激しい雄叫びもすっかりなくなり 春先から庭の巣箱を賑わせていたシジュウカラbabyたちも 先月末、元気に大空に飛び立ちました。 今年はエサが豊富なのか それとも今回のシジュウカラカップルが素晴らしかったのか ほぼ数分毎にエサを運び入れていて 巣立った子供たちも、いつになくふっくら大きく成長。 入り口付近で太ったお腹がつかえてしまい なかなか出られなかった子もいたほどです。 初飛行の日。 いつもは巣箱の出口から ゆっくりと下降していくような危なげな飛び方の子もいますが 今回の子供たちは、全然大丈夫。 1羽、2羽、3羽... あ、モタモタしてた4羽目も飛んだ! 私が見ただけでも少なくとも9羽の子供たちが 安定のクオリティーで力強く羽ばたいて行き 両親の鮮やかな子育てっぷりに、大拍手のひとときでした。 そして… 窓の外には、シーンと静まり返った巣箱がポツン。 鈴の音のような彼らの鳴き声は、もう流れて来ません。 ビュンビュン飛んで来ていたパパとママも、もう帰ってきません。 巣立ちのおめでたい日。 ドキドキして ガンバレ〜と応援して 嬉し泣きの後は、少しだけ胸がキュンと寂しくなる。 それは毎年恒例の 不思議な想いがミックスの1日でした。 静まり返った、雨の季節。 午後になると、潤った緑の庭に濃厚な霧が立ち込め 生まれたての紫が幻想的に揺れています。 2022年6月26日 雫に潤う...アトリエの窓より。 高野倉さかえ