なんという事でしょう。 庭に出ると、キジが走って来るようになりました。 ダッシュして来るのは 2ヶ月振りに帰って来た、そう、あのキジ助です。 春先は例の独特な声で頻繁に鳴いていたので 窓を閉めていても 「ん、来たな」 とすぐ登場に気づきましたが 鳴かなくなったこの季節ともなると 一体いつ庭に来ているのか、今ひとつよくわかりません。 しかもその登場時間も日によってまちまちとなると 残念ながらこの季節はなかなか顔を見られないかもしれない。 そんなことを考えながら、ドアを開けウッドデッキを歩き始めた、その時です。 遠くの方から、派手な色の鳥が小走りで走って来るではありませんか。 どれだけ耳が良いのか はたまたすぐ近くに潜んで私を待っているのか 明らかに音を聞いて駆けつけて来ています。 「キジ助おはよう!」 まっすぐにこちらをみつめながら駆け寄ってくるその姿がなんともいえなく可愛く 気がつくと野生のキジに普通に言葉をかけている自分がいます。 そんなある日。 キジ助の近くにしゃがみ込み フコフコ言いながらエサをついばむ姿をみつめていると 私たちのすぐ近くを なにやら黄金色の四つ足動物が横切って行くではありませんか。 かなりたっぷりした体格のそれは まさか近くに人間とキジのオスがいるとも知らずに 少しひょうきんな足取りでトコトコと ゆったりのんびり、庭の砂利の部分を歩いて行きます。 アナグマです! それもかなり美しい毛並みの、体格の良いアナグマです。 これほど美しいアナグマを見たのは初めてです。 しかも、至近距離を普通にゆっくりと横切って行ったので 私とキジ助の目線は、無言でアナグマを追っている。 なんとも不思議な光景でした。 そして数日後。 いつもの朝のキッチン。 朝食の準備をしながらニュースの天気予報を聞いていると 耳に珍しいフレーズが飛び込んで来ました。 「こちらが午前7時のアナグマの様子です。」 慌てて振り向いて見ると 画面にはアナグマではなく、雨雲レーダーが映っていました。 そのフレーズが聞こえてから振り向くまでの数秒間 私の頭の中には 寝起きでぼんやりした可愛いアナグマの姿が浮かんでいました。 でもぼんやりしていたのはアナグマではなく私の方。 「雨雲の様子です」のフレーズが 「アナグマの様子です❣️」 に聞こえてしまうなんて…かなり重症のようですね。(苦笑) そして思い出す。 昔、お絵描きを教えていた、ある幼稚園の教室の片隅。 年少さんクラスのひとりの女の子が 私のスカートの裾を引っ張り、こう言います。 「クモの巣、コスモス…。おんなじだね❣️」 3歳の彼女には、音の似ている言葉が同じに聞こえるようです。 そこからしばらく「おんなじ遊び」をしながら クレヨンでお絵描きをしたあの日の風景が 久し振りにこころに舞い戻ってきました。 もしも時間旅行ができて、あの日のあの子にまた逢えたなら 「雨雲とアナグマ」の組み合わせも是非教えてあげたいな。 素敵な想い出が蘇り 顔に笑みを浮かべながら絵筆を走らせる、8月のアトリエです。 Buona Estate a tutti! 皆さま、素敵な夏をお過ごしください。 2022年8月5日 湖水祭の花火が煌めく...アトリエの窓より。 高野倉さかえ