朝起きると、辺りはとても静かです。 山間部とはいえ、車の走る音もしないそんな朝は カーテンを開けると、そう 窓の外には真白な雪景色が待っています。 氷柱の成長、約20センチ。 なめらかな透明感が美しいです。 サクサクと、片栗粉を踏むような音を立てて歩く、白い大地。 純白の朝の楽しみは、まず通りすがりの動物たちの足跡探しです。 超高速で着替えを済ませ、洗面所で顔を洗うと あぁ、この水温は一体何度なのでしょう! 想像以上にキーンと冷たい山の水は、まだ眠り続けている私の目を瞬時に覚ましてくれます。 モッフリとした毛糸の帽子をかぶり、さぁ、玄関ドアを開けます。 まだ微かな粉雪の降る朝。空気が澄んでいるのが分かります。 本日の足跡。珍しくゼロ。 すぐに痕跡を消してしまう程の雪だったのか それともまだどなたも通っていないのでしょうか。 キジ助の3本指すら見当たりません。 そんな寒い季節がやって来ると 我が家では恒例の出来事が。 スマホやタブレットの指紋認証が機能しなくなるのです。 寒さで故障する訳ではありません。 私の指の指紋が、限りなく薄くなるからです。 手作業が多いこの仕事。 時には筆を使わず、手指で直接絵の具を塗ったり その名の通り「手直し」する時もあり 制作が忙しくなると、そして寒い時期などは特に 手についた絵の具を洗う度、手指の荒れが目立つようになります。 アトリエ仕事の後、カラフルになった両手を洗う作業がお湯になり 作業が進めば進む程、指紋が益々薄れて行く様子。。 そして夜は、ミッキーマウスになって眠っています。 どこがかというと…それは大きめの白いコットン手袋です。 擦り傷切り傷にも良く効く薬用ハンドクリームを それはもうベタベタになるほどたっぷりと塗り込み、そのまま白手袋をオン。 朝までじっくりガマン。肌荒れ補修と指紋の再生に励んでもらいます。 時は早くも2月の半ば。 白手袋をした夜中も、夢の中でさえも 日中と変わらず、仕事を続ける季節となって参りました。 来月は、恒例の展示会でございます。 .....ッくしょんっ! しばしの早朝雪の上散歩。 手指が冷え切る前に戻り、ハンドクリームマッサージといたしましょう。 室内へ入る直前に この後やって来る野鳥たちの為にとエサを撒くと 空の向こうから弾丸のようにアオゲラが飛んで来て 目の前の木製の電柱をコツコツし始めました。驚きです。 「春寒」という言葉の響きがぴったりな、雪の訪れるこの季節。 山の春は、まだまだ朝寝坊をしているようです。 それでもまた、樹々の梢には 確かな春の始まりが、日に日に膨らんで来ています。 2023年2月15日 純白のアトリエ窓より。 高野倉さかえ