5月。 あちこちに花々が咲き始め 海色の絨毯や桜色の大地が美しく輝いています。 そんなある晴れた日。 家族に付いて行った免許センターで、思わぬ長い待ち時間があり この数時間をどうしようか?と2人で外に出たところ、お隣には献血センターが。 「たくさんの皆さまのご協力が必要で〜す!よろしくお願いしま〜す!」 今まで私にとって献血とは、かなり高いハードルでした。 健康診断の採血ごときで顔が青ざめ 肩関節のブロック注射の際には気分が悪くなって立てなくなり 別室に移され要安静で寝かされる始末。 様々な医療機関で、どれほど皆さまのお世話になった事でしょう。 そんな私に、スタッフの方々にご迷惑をかけることなく献血をする事が、果たして出来るのでしょうか? 「成分献血なら体の負担も少ないし全然クラクラしないよ。」 その日は比較的体調も良く、空もよく晴れた気持ちの良い朝です。 その言葉を聞いて思いました。それなら、しかも2人一緒でなら挑戦できるかも?!と。 こうして家族と青空からいただいた勇気に背中を押され 人生初の献血センターへと、足を踏み入れる事になりました。 「ありがとうございます!!どうぞこちらへ!」 溢れる笑顔でとても親切なスタッフさんに案内され、席につき説明を受けます。 書類に必要事項を書き込み、身分証の確認。 そこで、ある事が判明いたしました。 このセンターには、成分献血の機材がないと! 「...で、で、では初めてなので、今日は200mlでお願いします。」 そういう私を、スタッフさんは説得します。 血液が本当に足りていない もちろんこの後細かく検査をしてからの話ですが、皆様に是非400mlをお願いしたいと。 確かに、その事情は非常によくわかります。 今日は体調も良い事だし、ここでガンバラナケレバ! こうして、まずは比較的軽い事からデビューと思っていた私は 心臓の高鳴りを抑えつつ、予想外の400mlの献血に挑戦する事となりました。 名前を呼ばれ、受付カウンターの席に移り、体温・血圧・脈拍を計測します。 そして注意事項などのビデオを案内され、タブレットを使いながらさらに詳細の確認。 首には、私だけ赤い紐のネックストラップがかけられています。 どうやら献血初めての人用の印のようです。 渡されたタブレットの質問事項をクリアしながら、1点だけ、気になる質問が出てきました。 「ヨーロッパに1980(昭和55)年から2004(平成16)年までに通算6カ月以上の滞在(居住)歴のある方」 はい。あります。イタリアに20年です。 そこだけチェックし、国名を記載して、次の部屋へ。医師の先生の問診です。 「…イタリアに滞在歴。はい大丈夫。」 意外にもすんなりOKをいただき、さらに奥のコーナーへ。ヘモグロビン濃度測定をするそうです。 針を刺す時、どうしてもその部分を見ることが出来ないので、私はバッチリ目を瞑っています。 その為どのタイミングでチクッとするのかが不明で、心臓はさらにドキドキです。 「パチっ!」 そんな音を立てて、中指に何かがチクッと刺さり、指をギューっと押されています。 どうやら血液を絞り出しているようです。 その間、看護師さんが何を話していたのかはよく覚えていません。既にかなり緊張していたようです。 その時です。 地面がゆらゆらと揺れ始めました。 「しまった!」 あぁ、またここで立てなくなるんだと思い、少し困った気持ちに襲われました。 その後、少し休んだら献血が出来るのか? それともここで役立たず認定をされて外に出されるのかと不安に思っていたところ 看護師さん達の声が聞こえてきました。 「…今、地震あったよね?」 あぁ、揺れていたのは私でなく地面の方だったのか! そして無事立ち上がり、献血ベッドへと案内されました。 快適そうな電動リクライニングベッドです。 いつの間にか手渡されていた水分補強ドリンクなどを置くテーブル そして目の前には比較的大きなテレビのスクリーンもありました。 「あら、手が冷たくなっちゃってるわ。」 末端冷え性なので普段から手足が冷え冷えになる事が多く、やはりこの日もそれを指摘されました。 明るくお話好きの看護師さん、早速奥へ行って温かいジェルの入った袋を手に握らせてくださいました。 そのやわらかい感触と丁度良い温かさに一瞬にして心が癒され 既にMAXへと向かっていた私の緊張をほぐしてくれました。 まるで、病室で母がベッド横に付いていてくれるかのように なんだかそれを握っていれば全て大丈夫な気がして、心が落ち着いたのです。不思議です。 「は〜い、では始めますね〜。チクッとしますからね〜。」 慌てて顔を背け、針から目を背ける私。 和らいでいた私の顔は一瞬にして戦闘モードに入りました。(笑) しかしながら一度針が刺さってしまうと後は全く痛みもなく、思いの外全てが順調でした。 もちろん、針の刺さっている腕の部分と 私の傍の機械がどのような働きで私の血液を吸い上げているのかは、全く恐ろしくて見られません。 ですがそちらさえ見なければ担当の方との会話も楽しめ、時間の流れも比較的穏やかです。 今まで恐れていた献血に対してのイメージが、180度変わりました。 こうして私の初献血は 皆さまにご迷惑をかける事もなく、無事、完了いたしました。 帰ってきた休憩ルームでいただいたバニラのハーゲンダッツ。 その甘さを口内でゆっくりと楽しみながら、思いました。 何も特別なことはしていない、大人として当たり前の事を、当たり前に出来たというだけなのに この周囲の優しい皆さんがチヤホヤしてくださる雰囲気 そしてこの明るく清々しい気持ちは一体…何なんだろう…?と。 そして訳もなく、達成感で良い笑顔になりました。 5月の空。 帰宅したアトリエの庭にはルピナスのタネが 噂で聞いた通り、日に日に枝豆そっくりの豆になって来ています。 巣箱ではシジュウカラBabyたちが激しくピヨピヨ♫ もうすぐ人生初フライトの時期を迎えます。 2023年5月12日 今日も新しい色彩の生まれる...アトリエより。 高野倉さかえ