寒さの深まる秋。 この時期のキャンティの森には日本ほどの紅葉はないものの、モノクロームの冬を迎える一歩手前の、今年最後の自然の彩りがみられます。 ちょっと散歩に出ると、帰り道には両手いっぱいの小枝や野の花。 「Ciao! Come va?」 いつものようにご近所の皆様と明るく挨拶を交わすと、それから長々と続く立ち話。 手を振って分かれる頃にはポケットにはいただき物のタマゴや野菜がずっしりと重くのしかかり、帰り道はまるでトレーニングのような厳しさに。 夏の間は一歩進む度に激しく真っ白な土ぼこりをあげていたあの田舎道。 それも比較的雨の多いこの時期になるとしっとりと散歩に最適な状態にはなるのですが、 寒さで着込んだ重ね着服の重さにぎこちない歩き方を強いられてしまう私はまるで着ぐるみを着たドラエモン。 いただき物の山を落とさないよう気をつけながら鍵を取り出し、やっとの思いでアトリエのドアを開ける頃には体中は既に筋肉痛に。 そんな風にイタリアの秋は深まってゆきます。 キーンと冷たい空気は東京の10月とは全く違った顔を持っており、 テレビのない山小屋の宵は深い静寂に包まれ、近所の娯楽と言えばそれこそ友人との夕食会くらい。 映画館のある街までは車で1時間程度かかってしまうしコンビニだってありません。 そこにはただただ人々の団らんと森の静寂があるのみ。 煙突から流れる暖炉の煙。パチパチと燃える薪の音を背景に本のページをめくると、暖を求めて近寄ってくるネコたちが膝の上を取り合い大げんか。 いただきものの栗にはハサミで切れ目を入れて薪ストーブの上でコロコロ。 ようやく焼き上がった固い殻を、爪を痛めないようにと気をつけながら取り除き、一粒そして一粒と口に運び楽しむ黄金色の秋の味覚…。 そして今、私はいつもの10月とは少々違った、日本の景色の中を散歩しています。 道行く人々は空を眺める暇もなく携帯片手に忙しなく歩き、散歩をしている人など皆無。 そのあまりの違いにふと、踏みしめている地面がどこの惑星のものなのか軽いめまいを感じつつ…迎える故郷の秋です。 2011年10月31日 高野倉さかえ