様々な色の野鳥たちが賑やかに歌う緑の庭。 目を閉じて、体いっぱいに深呼吸するとそこは...溢れる太陽の香りでいっぱい! そして今年も、去年より背の高くなったあの小さな白い花が一斉に咲き始めました。 ジャスミンです。 ハーブ園の入り口に設置したアーチに毎日くるくるとツルを伸ばし、少しずつ空へと登って行くその花は、イタリアの眩しい夏を呼び起こします。 そう、ジャスミンは、陽光が暖かさを増すと共に一斉に咲き出し、春から晩夏までの長い期間、いつでも気がつくとそこで微笑んでいました。 イタリア中部のトスカーナにも、北イタリアのビエッラの庭にも。 誰も手入れなんてしない場所でも、石の建物を覆い尽くすほどに背を伸ばし、いつも元気に輝いている。 それはまさに地中海の夏そのもの。 ジャスミンにはそんなイメージが色濃くありました。 さてさて、そんなジャスミンが箱根のガーデンで無事育つのか? 雪深い北イタリアでさえ咲いていた花です。 北欧の童話ムーミンにだってその記述があるくらいですから、たとえ海抜800mの元箱根でもなんとかなるに違いない。 ハーブ園の入り口に設置した金属製のアーチ脇に3本、細くちいさな苗を植えました。 そして2年と数ヶ月。 梅雨時の湿気に耐え、霧深い季節に耐え、陽光の少なさにも決してめげずに、 15cm足らずだった背丈が、今では1メートルほどに育ちました。 この勢いなら、ジャスミンが咲きこぼれるアーチも夢ではありません。 そう思って追加苗を探していると...あれ? なぜかどこの花屋さんにも見当たらないのです。 「ジャスミンの苗はないですか?」 そう質問して案内される先には、いつも不安なほどにか細い羽衣ジャスミンが。 「え〜と...このジャスミンではなくて、もっと耐寒性のあるツヤツヤの葉のジャスミンは...?」 その質問にはお花屋さんの顔がポカン?としてしまい、こちらはあえなく敗退。 そんな日々が続いていました。 そしてある日。 驚くべき事実を発見することになりました。 イタリアで誰もが「ジャスミン」と呼んでいたその花は...なんとジャスミンではなかったのです! ジャスミンは、モクセイ科ソケイ属。 しかしその花は、キョウチクトウ科テイカカズラ属。和名は唐夾竹桃(トウキョウチクトウ)というそうです。 星型の花の形状から英名を「スタージャスミン」といい、またジャスミンを思わせるような良い芳香も手伝って、ジャスミンと騙される人が多いそうな。 学名を見てまたびっくり! 「Trachelospermum Jasminoides」の「Jasminoides」は、「ジャスミンのような」という意味があるそうです。 騙された。。。私も、私の友人たちもみんな。 そんなイタリアの友人たち。 得意分野は他にありました。 あるとき、夕方の夜空に光る星をみて「あ!一番星だ!」と私が言うとすかさず、 「あれは惑星だから星じゃないよ。」と一言。 「...えっ?!...いいじゃない星で。」 「金星だから惑星だよ。星って言っちゃダメ。惑星は惑星。星は恒星のことだから。」小学生の子供にまでさらに駄目押し。 そんな細かく言わないですよね...日本なら。 確かにイタリアの人々は、天空の星や惑星に関しての知識が一般的に深い。 一方、植物や昆虫に関しての名前は、比較的曖昧な傾向がありました。 「蝶」も「蛾」も同じように「蝶々(farfalla)」と呼ぶ彼ら。 誰も「蛾(falena)」という言葉を口にしません。 日本は生物系に強いのかもしれませんね。 唐夾竹桃をジャスミンと呼び、蛾を蝶々と呼ぶイタリア人たち。 恒星も惑星もすべて「星」とひとくくりの日本人たち。 夜空では今年も、織姫と彦星が再会を祝っています。 2016年7月7日 高野倉さかえ