流れる風が、少しずつ冷たく透明になる頃、 キャンティの葡萄畑には、黄金色の風景が広がります。 舗装されていない長い長い凸凹道には、今日も野生のリスたちがこんにちは。 鹿が軽やかな足取りで横切り、イノシシが走る大地の上を見上げると、 青い青い空に、やわらかな直線を描いて消えてゆく飛行機雲。 澄んだ空気に包まれ、森の中では野生のキノコたちがゆっくりと顔を出し、 久しぶりに出た森林散歩では、持ちきれないほどの秋の味覚が摘み放題! あまりに豊作すぎて、カゴから溢れたキノコたちが帰り道にパラパラと落ちてゆき、 振り返ると、どこかヘンゼルとグレーテルのような風景が森に広がっていました。 しかしこれだけの量の収穫があると、帰宅してからの作業もまた大変。 まずは大地に根を下ろしていた付け根の硬い部分をナイフで切り落とし、 次にやわらかい歯ブラシを使いながら、土をひとつひとつ丁寧に落としてゆくのですが、 森の水分をたっぷり吸い込んで育ったキノコたちには、まるで糊で貼り付けたようにしっかりと土がこびりついており、 夕食にありつけるまでには、気の遠くなるような長い時間がかかります。 摘みたてのキノコを、これまたこの秋出来たばかりのエキストラ・ヴァージン・オリーブオイル、ハーブで炒め、 トマトソースで煮込むと、家中がふんわりといい香りに。 タリアテッレのパスタにかけて、さあお待ちかねの夕ご飯です。 薪ストーブの上では、保存用の乾燥キノコ作り。 そして家中の棚という棚には、まだまだたくさんのキノコたちがストーブの順番待ちをしています。 そう、イタリアの生活は、ひとつひとつが自然に包まれ、 ひとつひとつが、大地の恵みと共に息づいています。 窓の外の夜空には、大きな大きな、大きな金色のスーパームーン。 眩しい月光に、外灯もいらない秋の宵です。 月の魔法か、風向きか、今夜はなぜかテレビの電波も届きません。 2016年11月14日 高野倉さかえ