広がる風景の色彩が緑から黄色、赤と変化していく頃。 フィレンツェの旧市街には、長い長い梯子たちがやって来ます。 いよいよクリスマス・イルミネーションの季節です。 石畳で包まれた道という道の上に、長いケーブルを渡し、 ひとつひとつ設置して行くその飾りたち。 それは日本ではほとんど見られないような、シンプルな色&形の豆電球。 赤、青、緑に黄色と、様々な色のイルミネーションはほとんどなく、 白や柔らかなアイボリーで輝くちいさな電球たちは、 ひとたび灯がともると、まるで星屑を散りばめたように頭上を飾り、風に踊ります。 それは20年以上も前のこと。 初めてイタリアで迎えたクリスマス・シーズンは、私にとって本当に驚きの連続でした。 この国の人々は、お腹の底から響くような大声で話し、歌い、そして笑いながら、 子供のような不器用な手つきで、かなりの時間を費やしながら、クリスマス飾りを取り付けて行くのです。 そんな彼らの姿を、あちらこちらで目にしながら、 梯子から足を踏み外したりしないか、電球の塊がガッシャーンと落下してきたりしないか、 路上を歩く度に、いつでもハラハラさせられたものでした。 でもその反面、心は高い高い梯子の上の世界へ。 あの不安定な梯子を登りきった空からの景色は、一体どんな色をしているのだろうと、 ちょっぴりドキドキしながら、想像に胸を躍らせたものでした。 そして大騒ぎしながらやっと完成するデコレーションの数々。 その輝きは、予想をはるかに上回る、夢のような景色でした。 そう、この国の人々は、物を美しく見せる技術を自然と身につけています。 こんなに簡単に、こんなに適当に取り付けられているのにこの美しさ! 長い歴史を物語るフィレンツェの街並の魅力を、最大限に引き出す魔法。それが彼らの力なのです。 今年もあと30日。 日々透明度を増して行く空気の中を歩きながら、長い1年が終わろうとしています。 皆様、今年も本当に有り難うございました。 もうすぐやって来る2017年が、皆様にとって笑顔に包まれた一年でありますように。 来年もどうぞよろしくお願いいたします。 賑やかな魔法の国より、心からの感謝を込めて...。 2016年12月1日 高野倉さかえ