長雨の音と7月とは思えないひんやり肌寒い空気 そして深い深い霧に包まれる昼夜を乗り越えて、 少しずつ、本当に少しずつではありますが、 箱根の森にも暖かな気温の日が増え始め、微かに、夏の香りがして参りました。 暖かな季節になるとやって来るのが…不思議な蜂。 なぜ不思議なのかというと、ウッドデッキの表面塗料をせっせとかじりに来るのです。 巣材の接着にでも使うのだろうか?と思い、ようく観察してはいるのですが、 体につけたり抱えたりして運んでいる様子はなく、どう見ても食べている。 おかげでウッドデッキのハゲハゲ度がかなり順調に進んでいます。 塗り直してかじられ、かじられてはまた塗り直す。その繰り返しです。 そんなに美味しいのでしょうか…謎は深まるばかりです。 蜂といえば、以前トスカーナの田舎町に暮らしていた頃、 天井に蜂の巣が建設されていたことがありました。 それはある休日の昼下がり。 快晴で風が心地よく、朝から窓を開けて過ごしていました。 すると…おやっ? 外と中とを、何者かが行ったり来たりしている姿があるではありませんか。 足長蜂のようです。 プゥ〜ンと入って来てはまた外へ飛び去って行き、再び同じ窓から帰って来る。 その行き先を目で追ってみると…年期の入った天井の古い梁のあたりになにやら土色の塊が。 窓の外から飛んで来るときはかなりの大荷物。 両足にたくさんの、泥のようなものをつけては重そうに天井まで飛び、器用にペタペタ。 そして大荷物を全て使い切ると、帰りは身軽な体で「ふんふ〜ん♪」とまた外へ飛び去って行きます。 資材置き場は近場なのでしょうか。 飛び去ってから天井に戻って来るまでの時間は、ほんの数分です。 その器用なそしてテンポの良い仕事っぷりに感動し、しばらく見とれてしまいましたが、 「はっ!いけないいけない!」 このままでは室内に蜂のお住まいが完成してしまう!という大事なことに、ふと気がつきました。 この働き者さんには可哀想ですが、どこか他に場所を移していただかないといけません。 と言っても相手は一応、蜂。無闇に近づいて刺されてもいけない。 どうしたものかと考えていたところ、いい案が浮かびました。 しばらく観察していたおかげで、窓から出て行くタイミングがほぼ正確にわかります。 それならその瞬間に、ガラス窓を閉めてしまえばいいではありませんか。 「ふんふ〜ん♪」 荷物をおろした蜂が外へと飛び去って行ったその瞬間に、窓を閉めました。 その数分後。 「バチン!」 何も知らずに戻って来た蜂が、窓ガラスに激突しました。 ぶつかることまで想像していなかった私は、 怪我をしたのではないだろうか、 それともまさか、死んでしまったのはないだろうか〜!とかなり心配しましたが、 蜂はすぐに窓ガラスの向こう側に戻って来て、 「あれ?おかしいな...今までフツーに入れてたのに...もしも〜し!」 と、ガラスを叩きながらこちらを覗いています。 「ごめんね。。ここはダメなんだ。。。」 謝り倒す私を前に、5分いたでしょうか、10分ほどは頑張ったでしょうか、 建設現場を諦めなければならないことをようやく受け入れたその蜂は、真っ青な大空へと飛び立って行きました。 さっきぶつかった時についたのでしょう。 ふと見ると、窓ガラスには蜂の運んでいた泥が微かに残っていました。 イタリアの住宅には、ほとんど網戸がありません。 なので窓越しに眺める外の景色は、どこもクリアーで美しい。 しかしその反面、虫や動物たちは四季を通じてフリーエントランスなのです。 そういえばコウモリが入って来て、パニクったこともあったなぁ。。 箱根の生き物たちを見ながら、ふと、トスカーナの自然を思い出す晴れた日。 長雨にちょっぴりくじけそうになっていたラベンダーたちも、再び花をつけ始めています。 ようやくやって来た、眩しい夏空に向かって。 自然は今日も、たくさんの贈り物をくださいます。 2019年7月29日 ウグイスとヒグラシのハーモニーが今年もやって来た、箱根の森より。 高野倉さかえ