ちいさい頃、「サルビア」というと思い浮かべるのは、あの赤い花でした。 緋衣草、そしてスカーレットセージとも呼ばれるその鮮やかな赤花は、 幼心にあまり好きな花ではありませんでしたが、 イタリアに渡り、生活の中でハーブと親しむようになってからは、 サルビアにも数百種にのぼる様々な種類があり、 色も赤だけではなく私の大好きな青も多くあるということから、 身近に感じられる花の一つとなっていきました。 ♪ Are you going to Scarborough Fair? Parsley, sage, rosemary and thyme…♪ ハーブというと、ほぼ自動的に心の中に流れ始める歌があります。 それはサイモン&ガーファンクルのあの美しい曲。スカボローフェアです。 この曲の出だしにある、パセリ、セージ、ローズマリーとタイム。 これらはトスカーナの生活でも欠かせないもので、 庭という庭、そして道端にすら力強く成長し、太陽に向かって伸びていました。 イタリア語に訳すとパセリは「プレッツェモロ」。 ローズマリーは「ローズマリーノ」。これはわかりやすいですね。 そしてタイムは「ティモ」と言います。 そんなことを考えていた遠い昔のある日、ふと頭の中にピカン!と電球が灯りました。 セージとはなんと、イタリア語で「サルビア」じゃないの!と。 それはある日のこと。 フィレンツェの地元の食堂で、大好きなサルビア・フリッタを食べていた時でした。 独特な香りのセージの葉に衣をつけて揚げたものに、軽く塩を振って食べる。 なんともシンプルなこの料理は春から夏にかけてよく見かける季節の前菜でした。 日本でいうと、明日葉やシソの葉の天ぷらの、 衣の内部を少しだけモチっとさせたような雰囲気のフライ。 あぁ今年も、サルビア・フリッタの美味しい季節がやって来た! ニコニコしながら最初のかけらを口に運んだ瞬間、 今まで全く別物とカテゴリー分けしていたこの2つの言葉が、イコールで結ばれたのでした。 「サルビア」=「セージ」 それまでの私は、サルビアというとあの赤い花しか思い浮かばず、 歌詞に出て来るセージも、なぜかサルビアとは遠くかけ離れたもののように思えていました。 でもようく考えてみると、サルビアとはシソ科アキギリ属のサルビア種。 とするとハーブの代表格のセージも、薬用サルビアと呼ばれるサルビアの仲間なのだと。 元々、サルビアの語源はラテン語。なのでイタリア語ではそのまま残り、 セージはさらにそこから発生したフランス語から、または英語からという説もありました。 そういえば、セージの学名を検索してみると表記は Salvia Officinalis。確かにサルビアと書いてあります。 母の庭からやって来たチェリーセージも、学名はやはりSalviaから始まっていました。 植物に関して様々な国の言葉が入ってきているこの日本では、 セージと呼んだりサルビアと名札がついていたり、ややこしいことが多いです。 さて、そのサルビア。 箱根の庭には、メドーセージとも呼ばれるサルビア・ガラニティカという濃い青の花が幾つかあります。 その中でも、ブラック&ブルーという種類のものは幹がかなり黒く、 花の部分の鮮やかな深い青とのコンビネーションが、とても美しい。 そんな色合いが気に入って、ちいさな株を3株ほど庭に植えたのは昨年のこと。 そして冬がやって来て、地上部分の緑が枯れ、しばらくはその存在さえ忘れてしまっておりましたが、 気がつくと今夏には…大人二人でも両手に抱えきれないほどの森に大変身。 高さも2m近い大株に成長しました。驚きです。 眩しい夏の陽を浴びて、風に揺れる背の高い青の花々は、 嵐にも耐え、折れることなく元気です。 ハーブ園を作ろうと思っていましたが、山の冬を越せたものはほぼシソ科のみ。 いつの間にかサルビア園ができてしまいました。 一方、ウッドデッキのプランターではイチゴが次から次へと 終わりなく実をつけ続けています。 何やら季節感が...ちょっとだけおかしいような? 2019年8月12日 真夏の陽光が揺れる、サルビアの森より。 高野倉さかえ