「ウグイスはウグイス色をしていない。」 その発見をしたのは、いつのことだったでしょう。 ふんわりと渋い黄緑色のウグイス餅を食べていた小学生時代。 お餅にまぶしてあるあの粉の色=ウグイスという鳥の色だとすっかり信じ込んでいたあの頃、 私の行動範囲では、実際にウグイスを目にすることがありませんでした。 時折遠くの方で「ホ〜ホケキョッ」と美声が響くことはあっても シャイなその鳥は決して姿を見せず、 想像の中のウグイスは、私の中で益々鮮やかなウグイス餅色に染まっていきました。 そしてある日。 ウグイス餅にそっくりな野鳥に、いよいよ遭遇することになったのです。 シャイだとばかり思っていたそのちいさな野鳥は意外とフレンドリーで 近くで写真を撮っていても構わず、夢中で花の蜜を吸っています。 「ここのウグイスは意外と人間に慣れているのね」 まるでホワホワのウグイス餅が花の合間を飛び交っているような風景に 心はあっという間にやわらかく癒され、 その鳥が大好きになりました。 でもなぜか、その緑の小鳥が「ホ〜ホケキョッ」と鳴くことはなく、 ようく見ると、目の周りにはぐるりと白いお飾りが。 そう、典型的なウグイス色をしたその鳥は、なんとウグイスではなかったのです。 「ウグイスの写真撮っちゃった!スゴイでしょう?って人に見せたらね、 いや、それはメジロだよって言われたよ...(苦笑)」 久し振りにあった友人がある日、少し照れ笑いをしながらそう言いました。 メジロをウグイスだと勘違いする人は、どうやら私だけではなかったようです。 それもこれも「ウグイス色」という色の名前が 実際の鳥の色とかなりかけ離れているからなのでしょう。 野生のウグイスは一方もっと地味な茶色で、 木々の間を飛び交っていても、なかなかはっきり目につきません。 ではなぜ、あの緑色がウグイス色として有名になってしまったのだろう?と不思議に思いました。 そんなある晴れた日のこと。 「ドゴンッ!」 ガラス窓に何かが当たり、驚いた我が家の猫がビョーン!と飛び上がりました。 不信に思って外を見ると、おや? ウッドデッキの上にウグイス餅がコロンと落ちているではありませんか...。 Oh!!!メジロさんが誤って窓に当たってしまったようです。 早くも半泣きしながら慌ててデッキに出て駆け寄ると、 倒れているメジロさんはまだ生きており、細い足がピクピク。 ちいさな体をそぅっと掌にすくい上げ、震える体を温めます。 すると少しずつ、ゆっくりと震えが収まり、 白いお飾りに囲まれたちいさな目がパッチリと開きました。 脳震盪を起こしているのでしょうか、まだフラ〜としてはいますが、 折れたかと心配した足もすっと伸び、掌の中で立ち上がりました。 あぁ!良かった!!!神様ありがとう!!! ふわふわの羽毛に包まれた ウグイス餅よりも断然軽いその緑の妖精は、 なにやら随分義理堅い性格なのか、 それともこの場所を気に入ってくれたのか、 元気になった後もしばらく掌を離れずに、 15分、いや、20分はいたでしょうか。 ゆったりのんびりくつろいで、青く澄んだ冬の空に元気に飛び立って行きました。 「また時々は立ち寄ってくれるかなぁ?」 想像するだけでなんだかちょっぴり笑顔になる、冬の日です。 自然に溢れた箱根の山は、今日もかわいい野鳥で賑わっています。 2020年2月16日 珍しく雪の少ない2月の...元箱根アトリエより。 高野倉さかえ