風が少しだけ、涼やかに変化して参りました。 けたたましい音がして庭を見ると、キツツキが来ていました。 アオゲラです。 でも庭の木に留まったのは一瞬だけ。 お気に入りは、家の前にある電柱のようです。 この道にはまだ昔ながらの木製の電柱が残っています。 もうかなり年季物のようなので 古くなった木のフシあたりに何か虫でもいるのでしょう。 あちこち念入りに掘っては、そこに細長いクチバシを器用に突っ込んで 何やら食べたり飲んだりしています。 「ココココ。。。コココココ。。。」 一見丸太のようなその古い電柱の周囲をクルクルと移動しながら リズミカルなココココ音は続きます。 周囲にこれほど緑が生い茂っていて、たくさんの木々があるのに電柱を選ぶとは! なかなか通なアオゲラです。 キツツキの激しい攻撃を受ける年季物の電柱をみつめながら もう一つの年季物、愛車のFIATを想います。 今年もやって来た、9番目の月。 個展yearのこの月は、いつも少々ドキドキ。 なぜならそれは... 少しだけお歳を召してきた愛車の車検がやって来るから。 最近再び点灯を始めたABS警告アラートにブレーキパッドとディスクの交換、タイミングベルト交換などなど... 今回は一体どれだけの打撃があるのか、ビクビクでございます。(苦笑) さて、この季節のアトリエの庭は、天に向かってグングン伸びるガウラが華やかです。 このガウラ、街中で見るものは可愛らしいサイズなのに 我が家で育つと背丈がそのほぼ倍に。 2mもの高さからふわふわ揺れるその姿に 蝶々やミツバチなど様々な虫たちが蜜を求めて大集合。 おかげさまで秋には、かなりの量の種が作り出されます。 今年行った実験ではその種の発芽率も抜群! お試し用植木鉢には可愛いサイズのガウラの子供たちが花をつけています。 花々の周りには今年もまた、アサギマダラさんが帰ってきていました。 年に一度だけ見る、ステンドグラスのような美しい柄の蝶々。 何百キロもの渡りをする珍しい蝶だそうです。 「ガンバレ〜、美味しい蜜、たくさん吸ってってね❣️」 風で流されてしまいそうなこの軽い軽い生き物が 遥か彼方から飛来して我が家にやって来ると思うと、その広大な浪漫に心を打たれます。 そんな9月。 この時期になると毎年頭に浮かぶ風景は、収穫前の葡萄畑です。 トスカーナのなだらかな丘に広がる、豊かに実った果実。 そして忙しく動き回る友人たち。 不思議なものです。 すぐ隣にあった時代はそれを描こうとは思ってもみなかったのに 遠くなった今になって、みずみずしい葡萄の風景が描きたくなってまいりました。 今ならギリギリまだ間に合うかと、慌てて身支度。 ここから比較的早く辿り着ける範囲の葡萄生産地やワイナリーへと資料集めに走ります。 山梨の葡萄畑は棚仕立てがほとんど。 垣根仕立てのトスカーナとは景色も雰囲気も違います。 しかしその丁寧な日本ならではのつくりや枝ぶりがまた面白い! 美しく丁寧に管理された畑で 枝の伸ばし方や作り方、葉っぱの構造を学んだり、色に魅了されたり 太陽光に透ける熟した葡萄の粒を夢中になってみつめ、カメラに収め続けた、濃厚な時間でした。 そして帰宅してふと気がついた事。 あ!日焼け止めを塗るのを忘れてしまった! お陽さまを全身に浴び、ニコニコで動き回った1日。 ややヒリヒリの後は夏休みの元気な小学生のように久々に真っ黒です。(笑) そしてアトリエでは、新しい作品が生まれ始めています。 宝石のように輝く葡萄の一粒一粒を描きながら 心はたちまち、空を超えてイタリアのあの景色へ。 秋が始まる時期の、あのひんやりとした風の香り。 日々早くなる日の入り。黄昏、薄明、時間の流れ。 これからやって来る大好きな季節に、心が躍ります。 2023年9月18日 ガウラの花々が空に向かって揺れる...9月のアトリエより。 高野倉さかえ