冬の日。新しい年の始まりの月。松の内。 アトリエの庭には、鹿が訪れました。 いつもは神社の森にいる鹿たちが お正月の参拝客の多さに驚くのでしょうか。 静けさを求めて、この庭を訪れたようです。 見るとあちらこちらに葉を全て失った棒状のものが立っているではありませんか。 どうやらアオキの葉を美味しく召し上がられたようです。 ここに1本、あそこにもまた1本と、棒コレクションは続きます。 昨晩はかなりゆっくりして行ったのか あちこちに鹿独特の足跡が霜柱の上にバッチリ美しく残っておりました。 道路の方からこう来て、斜面を上り花壇へ。 そしてローズマリーの脇を通り抜け、ゆっくりとアセビの木の下へ。 なるほど、そんな風に歩いていたのか。 足跡をたどりながら、鹿の散歩道を堪能します。 サクッ、サクサクサクッ。 月明かりの中、少しだけ凍った枯葉の絨毯の上を踏みしめながら 鹿と共に歩く私。 そんな姿を想像しては、子供のような微笑みを浮かべております。 少し庭を歩いていると… おや? 花壇の半円形に沿って植えていたビオラの列が、一部、消えています。 近づいて見ると、地面近くのちいさな葉はまだ微かに残ってはいるものの 茎の部分からボキボキと花を美味しく召し上がられた誰かがいるようです。 花の列に沿って端からモグモグ食べ進み、お帰りになったのでしょう。 今では半円の半分までがスカッとなくなり、入口近くだけ花の列が並んでいます。 ところどころまばらに食べ散らかすのではなく ここまで綺麗に食べ、綺麗なレイアウトで残して行ってくれるとは、恐るべしです。 そしてこの季節恒例の訪問者が、今年もやって来ました。 メスのキジです。 オスのキジ助の方はどうやらここがテリトリーのようで もう数年前から一年中いつでも、この庭を訪れています。 ですが不思議なことにメスは違う。毎年寒い季節と共にやって来るのです。 今年のメスは、まだとても若いのか体もちいさく 今までにない少し変わった声で鳴いているので 遠くにいてもその音で、庭に来ている事がわかります。 ヒュー。ヒュ〜ヒュ〜ヒュ〜。 冬の大気の中に消え入りそうに微かなハスキー声で鳴きながら 遠巻きにオスのキジ助を見つめる姿。 今年のキジ助は珍しく、メスを引き寄せているようです。 ようやく待望のモテ期に入ったのでしょうか? しかし彼は、メスの声にも気づかない様子でしきりにエサをついばんでいます。 そんな標高800m超えの山の冬。 そこで元気に咲き続けられる花々はごくごく限られていて アトリエのガーデンも鮮やかな色彩に飢えています。 ですが、花の不足分を補うように、大気が遠くまで澄み渡り 晴れた日には空の色が、そう、息を呑むほど綺麗です。 朝焼けに輝く空。 少し太陽が高く登った昼間の青い空。 そして、夕暮れ時のゆったりとしたグラデーションの空。 私たちの1日を照らした太陽が 刻一刻と角度を変えてゆき 落葉した樹々の形を鮮やかなシルエットに変えて浮かび上がらせる。 この季節の醍醐味とも言えるでしょう。 大好きな瞬間です。 新しい年の始まり。 そしてアトリエでは、新たな色彩が日々生まれ続けております。 皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。 2024年1月22日 冬の輝きのアトリエより。 高野倉さかえ