寒くなりました。 今年は暖かい日がいつまでも続いていたので、突然の寒波に体が驚いているようです。 庭の中央に立つシンボルツリーの葉も、ここ数日の寒波で一気に残り少なくなり 大空に枝ぶりのシルエットが映えるようになりました。 それでも、冬仕様に向かっているその樹木の枝先には既に 春のかけらが膨らんできています。 そう、それは次の暖かい季節への樹々の身支度。 毎年の事ではありますが、この時期 葉を落とした樹々の梢が膨らんでいる姿を見る度につい、想像してしまいます。 来年の春がちいさくぎゅーっと凝縮して、あの梢の中に眠っている姿を。 そんな季節が今年もやって参りました。 山の冬は、氷点下の気温が多く、厳しいです。 しかし1年のうちで一番大気が美しいのは、間違いなくこの寒い季節でしょう。 キーンと澄み渡る空にやって来る野鳥の混成群。 様々な色柄の小鳥たちが、枝先で何やら食べ物を啄みながらクルクルと回る姿は何とも言えない愛らしさです。 「ピャッピャア〜🎵」 その小鳥たちの姿にガッツリと心を奪われた我が家のネコも 空からやって来るちいさなお友達たちに向かい、窓辺で何か話しかけています。(笑) 窓辺の色彩が、少しずつ冬へと向かうこの季節。 先日は、山を降りた先の道の駅で、ステキなWindow Artに出逢いました。 クレヨンのような材料でガラスに直接描かれた筆跡が 光を浴びて影を作りながら床へと映るステンドグラスのように見え 鮮やかな色合いと素朴なタッチが陽気な雰囲気を醸し出します。 その窓辺を見ていたら、ふと 懐かしい幼い日々の出来事を思い出しました。 手がクレヨンの香りになるほどにガッチリと握りしめながら、夢中で描いたあの日々。 ガラスや家具など、紙以外の物にもたくさん描きました。 クレヨンの先がコツコツと、硬い表面にあたる時のあの感覚。 あぁまるでまだ指が覚えているようです。 窓辺には様々な色が映ります。 光の揺れる色、季節の進む色、風の色や雨の色。 そんな窓辺の風景が、私はとても好きです。 イタリアに住んでいた頃、人々の家を訪れるとよくそのインテリアに感動しましたが 特に惹かれたのは窓やドア周りのデザイン。 中でも、欧州の皆さんのお部屋のデスクの置き場所にはいつも驚かされておりました。 部屋に入ると、デスクに座る方は窓を背にしてこちら側を向いている。 光を背に浴びているのです。 彼らのバックには、まるで「窓」という名の絵画が飾られているよう。 そう思ってみると、窓枠のデザインもまるで額縁のような役割を担い そこに映る風景は、彼らの存在感を常に背後から飾っているのです。 一方、私のアトリエの机は、いつも窓の外の世界へ向いている。 ということで部屋に入るとまず、仕事をしている私の背中が見えるのです。 欧州の方々の美意識は、私の想像の斜め上を行っているような感覚で 自分の存在を含めた、部屋のトータルコーディネイト。 私は自分の見たい景色の事のみを考えて、窓辺から外を眺める机の配置です。 ちょっとしたカルチャーショックでした。 でもでも、窓の外を向く私のデスク配置にはある利点が。 そこでは移ろい行く空の色彩や、緑の木々を輝かせる光 そして窓の近くに時折現れる野鳥たちをも常に感じながら、制作することができるのです。 この時期になると、冬の始まりの雪のひとひらを発見できるという大きな利点もさらにプラス! なので外の世界へと向かう仕事机の配置は、20年のイタリア生活の後でも変わりません。 今年も12番目の月が、もう、すぐそこまで来ています。 いつもより暖かかった秋が深まり、冬が現れる瞬間を やわらかな気持ちで待ちながら絵筆を動かしています。 次回の個展まであと3ヶ月とちょっと。 アトリエの中を出来たての作品たちが賑やかにしてゆく日々。 そしてまた、額装の支度に足の踏み場がなくなって来る時期でもあります。 来年春に再び出逢う皆さまに、笑顔を運んでくれるような作品がたくさん生まれますよう、ガンバリマス。 2024年11月26日 アトリエの窓辺より。 高野倉さかえ