遠く深い青の空に鮮やかな緑の大地。 そこに散りばめられた花々は、まるで真夏の満天の星のように輝いています。 冬ということを忘れてしまいそうなこの景色は、春のトスカーナそのもの。 なぜこの1月に…?と思われる方も少なくないと思いますが、実はこれ、冬ど真ん中、今月1月に撮影した日本の風景なのです。 ふらりと出掛けた伊豆・下田で偶然みつけた、爪木崎の海辺の花園。 水仙の群生地です。 なだらかな丘に流れる草むらのダンスは、もうトスカーナそのもの。 そこに太平洋の深い波音のメロディーが加わり、さらに空気は潮騒と水仙の甘い香りのブレンド。 風は冷たく頬をさし、しかし陽射しは遠くに微かな暖かさの春を感じさせていて… 季節感も距離も時間も、すべてがエッシャーの絵のように不思議な空間定義で結びつけられているような、なんとも言えない不思議な光景でした。 そう、イタリアから日本に一時帰国をすると思うこと。 ファインダー越しに見る東京の空はいつもどこかしらうっすら白ボケしていて、胸がすっきりするような鮮やかな青になかなかお目にかかれない。 しかも街中ではただでさえ小さな空の面積が電線に邪魔されていて、時々訳もなく寂しい気分になってしまう。 普段のイタリアの生活では当然だと思っていたあの深い空の青が、これほど貴重なものなのかと感じてしまう故郷、東京の風景。 そこからちょっぴり足を伸ばした先に、こんな「イタリアのかけら」が存在したのかと、驚きに胸を打たれた、1月の午後でした。 しかし美しい風景は人を呼び、そして訪れる人々はお客様目当ての出店を呼ぶようで…。 駐車場らしきもののある海辺の広場近くは、なんと魚の干物やサザエのつぼ焼きの香りそして呼び込みの声が花の香りを圧倒するほどの勢い。 なるほど、この商売熱心な国・日本では、自然の静寂美だけを楽しむのはなかなか難しいことなのかもしれません。 イタリアの田舎では、どんなにお土産を買いたくても店がないくらいなのに…! 本当に両極端ですね、この2国は。(笑) 2011年1月31日 高野倉さかえ