4月も半ばになってからの驚きの雪景色に 先日は真白に染まってしまったアトリエにも、 ここ数日でようやく、桜が咲き始めました。 春です。 桜に染まる、春です。 イタリアに在住していた長い年月。 あの頃は毎年春になると、よく遠い祖国の桜を夢見ました。 空を染める薄紅の花々。 舞妓さんのカンザシのような、ピンク味の濃い華やかな枝垂れ桜。 そしてどこからともなく風に乗って舞い来る、やわらかな桜吹雪。 微かな芳香と、暖かな陽光に包まれて目を閉じると、 世界が桜に覆われているように思えて、目が覚めたものでした。 ふんわりと優しく香る、春。 日本の春は「微かな」「仄かな」という言葉がとても合うように思います。 季節と季節の変わり目がやわらかで、冬色のグラデーションが少しずつゆっくりと春に溶け込む感覚。 そう、「曖昧な中に息づく美しさ」とでもいうのでしょうか。 一方、イタリアの春はというと、 やわらかなグラデーションの重なり...というよりは、 世界が突然「パキッ!」と音を立てて目覚める、そんな雰囲気です。 サマータイムで時計をずらすせいもあって、1日の日照時間がいきなり長くなり、 巷では半袖半ズボンが目立ち始めて、 イースターのカラフルなチョコタマゴが街のあちこちを彩ります。 そして太陽が空で微笑む日には、みんなこぞって日向ぼっこ。 広場にも圧倒的に人が増え、教会前の階段にちょっぴり面白い光景が現れます。 街のあちこちにある、教会前の石造りの階段。 そこに斜めに日が当たり始めるのですが、その日向の形に沿って、大勢の人々が座り始めます。 それはまるで、自然の作り出す大人気日焼けサロン。 小麦色の健康的な肌を好む彼らは、暖かい季節がやって来ると慌てて日焼けに励み出し、 どこからともなくやって来た人々の群れが、大理石の階段を覆い隠してゆきます。 面白いのは、遠くから見たその景色。 日向と日陰でパッキリと人口密度が違っており、 日陰が斜めに伸び出すと、人々もその形に沿ってジリジリと動いてゆく。 それはまるで、陽光を求めて日向に顔を出す動物たちのよう。 ガーデニングの最中、春の暖かな日差しにまどろむトカゲたちを目にすると、 ふと、この光景を思い出し、今でもつい微笑んでしまいます。 燦々と降り注ぐ陽光を浴びながら、話題は早くもサマーバカンスの行き先。 そんなイタリアの春を、今度は祖国の桜を見ながら思い出しています。 Buona Pasqua e Buona Primavera a tutti! 今年もステキな春をお迎えください。 2019年4月21日 高野倉さかえ