鳥は、三半規管が強いのだろう。 ある嵐の日に、窓の外で激しく踊り狂う木々たちを見ていてふと、そう思いました。 アヒルなどの一部の鳥たちを除き、 ほとんどの鳥たちはその人生の大部分を、地上以外の場所で過ごします。 それは眠る時も同じ。 天敵から少しでも身を守るためです。 そして台風や嵐の日。 こんなに激しく揺れ動く木々のどこかで、 箱根の野鳥たちも身を寄せ合って耐えているのでしょう。 考えるとスゴいことです。 もし私が鳥だったら、きっとすぐに酔ってしまうに違いない。 想像するだけで、乗り物酔いしてしまいそうです。 しかしながら、 白くてふわふわのエナガさんや、メジロさん、 カラフルなヤマガラさんそしてシジュウカラさんなどのちいさな野鳥たちが、 嵐に激しく揺れる枝にギュッと捕まり、頬を寄せ合いながら前後左右に揺れている姿は、 もしかするとかなりカワイイかもしれない。 そんな3D映像を心に思い描いては、ひとりでクスッと微笑んでしまう、ある静かな日曜日です。 そして思い出す、イタリアの嵐。 あたったらかなり痛いくらいのサイズの雹に、何度も何度も出くわしました。 ガツンゴツンと激しい音を立てて窓に雹があたり始めると、 ガラスが割れるのではないかと、ヒヤヒヤ。 しかし問題は、どちらかというと雹が激しい雨になった時の方でした。 トスカーナの田舎の家には、ちょっとした出窓が多く、 私は普段、よくそこに携帯電話を置いていました。 その理由はただひとつ。 電波がそこしか入らないから。 イタリアでよく見られる伝統的な古い石積みの家々は、 古ければ古いほど壁が驚くほど厚くて、 携帯の電波がなかなか家の中まで届きません。 なので微かに入ってくる電波を求めて、携帯はいつも窓辺に。 そして事件は起こりました。 雨脚がやや強くなり、アトリエ作業の手を止めてふと出窓付近を見ると... あれっ?!...室内に...池? そして携帯がそこに水没しているではありませんか! イタリアの住宅は、どこを見ても本当に美しいデザイン。 ですが日本のものほど気密性がありません。 隙間が空いていたり、左右で微妙にサイズが違っていたり、水平でなかったり、 かなり自由なハンドメイド。 そして私の住まいの出窓は、窓枠の隙間から雨水が漏れるだけでなく、 出窓の傾斜が、なぜか室外側に傾いており、 窓枠から室内に漏れ始めた雨水が、すんなり床まで流れることなく、 出窓部分にちょうどよく、まるでミニ・プールのように溜まります。 電波を求めて出窓に置かれていた携帯は、 キッチンやバス・トイレなどの水回りとは程遠いその場所で、 とっぷりと水に浸かっておりました。 しかもそういう時に限って、買い換えたばかりの携帯だったりするものです... 「昨日トイレに携帯落っことしちゃってさ〜。 で、その瞬間に電話がかかってきて、 バイブで震えながら沈んで行ったよ…なんかスゴいとこ見ちゃった」 以前、友人が携帯水没事件の話をしている脇で、思ったことがあります。 携帯を持ったまま水回りに行く時には、物凄〜く気をつけようと。 しかし出窓は盲点でした。 雨の予感を含んだ空気は今日も元箱根の緑を潤し、 雫の輝く網戸にはゆっくりのんびり歩くちいさな訪問者が。 米粒ほどの極小カタツムリさんのお出ましです。 2019年9月22日 真白な空と冷んやりとした秋風の吹く元箱根より。 高野倉さかえ