金木犀の香りに包まれたウッドデッキから、見上げる空。 風に乗って渡りゆくものは、 美味しそうな真白の雲 ヤマガラの家族 トンボ アゲハチョウ トンボ トンボ トンボ 絶え間ないトンボの列がしばらく続いた後、 静かな空は突然、野鳥の混成軍で大賑わいになってきました。 メジロ、シジュウカラ、ヤマガラにソウシチョウも参加しています。 その合間にはハクセキレイやキセキレイが可愛くシッポをヒヨヒヨさせ、 ちいさなキツツキのコゲラさんが木をノックする音も時折チラチラ。 ふんわりと風が揺れ、 開き始めた金木犀が空気を淡いオレンジ色に染める、晴れた日。 大好きな季節が今年もやって来ました。 そんなある日のこと。 「鳩時計が好きだったよね」 先日、アトリエに足を運んでくれた友人がふと、小学校時代を思い出し呟きました。 何十年もの長い時の流れの中で、もうすっかり忘れていた子供の頃の景色が 一瞬にしてふわっと蘇り なんだか胸が踊りました。 家の近所にあった、あのちいさな雑貨屋さん。 ピーターラビットのポストカードや 欧風のちいさな額縁たち。 身の回りにあるものとは少しだけ違う香りのするモノたちが、 たくさん、たくさん詰まったその店の一角に飾られていた鳩時計が大好きで、 よく眺めに行ってはニコニコ。 大きくなったらこれを買う。 大人になったらこんな家に住む。 大人になったらこんな国に... その鳩時計の前にいるだけで、心の中には様々な憧れの風景が描き出され、 ちいさな私はそれだけで嬉しくなりました。 そんなドキドキした気持ちを、そうだ、いつどこに置いてきてしまったのだろう? 時間の流れの中で見失っていた、暖かなそして形のない何かを、 「ほぅら、これ。裏の道に落ちてたよ?」とでも言わんばかりに 幼なじみの彼女は、目の前に差し出してくれました。 時を超えてやって来るもの。 それはいつも、透明で目に見えないものなのかもしれません。 こんな風に日本に帰国して、たくさんの友人と再び出逢えて良かった。 そんな気持ちを胸に、今日はガラスの森を歩きましょう。 箱根の自然と、懐かしいイタリアの風景が少しミックスした、不思議な世界。 ふわふわに育って来たススキは風に揺れ、 その隣ではクリスタルガラスのススキが、幾何学的な美しさで輝きます。 耳を澄ませば、陽気に流れるカンツォーネのイタリア語が心を和ませ、 水に浮かぶ鴨の親子が、今日も仲良く羽のお手入れ。 ふと気付くと、周囲には子供の頃の夢が山盛りです。 箱根の国は今、大好きな秋の香りに満ちています。 短くなり始めた日の長さがちょっぴり哀愁を誘い、胸をキュンとさせる。 目を閉じると、ひんやりとした空気がひとつそしてまたひとつと、 木々の葉を秋色にしてゆき、 どこからともなく、大好きな金木犀の香りがやって来ます。 見上げると、電線に遮断されることのない空は大きく、広く、 トスカーナのあの田舎町の景色をも思い出させます。 目を閉じると、カサッ、カサッと微かな音がして、 風が吹く度に、 一瞬 一瞬 秋が深まってゆきます。 ...薪の準備、そろそろ始めないと。 2019年10月02日 流れる金木犀の香りを思いきり深呼吸の...元箱根アトリエより。 高野倉さかえ