今日はある美しい花のお話です。 久し振りに訪れた、お気に入りのちいさな花屋さんでみつけた背の高いそれは、 風に吹かれても折れてしまいそうな、糸のようにか細く長い茎の先に ぴょんぴょんぴょ〜んと元気に 薄紫色の花を5個6個とつけていきます。 花部分のつくりだけを見ていると、 少しだけ韮草に似た星の形。 窓辺の光を浴びて、銀色に透ける花びらの細部は 花中央近くが濃いマゼンタ色。 それが先端に向かってすぅっと伸びてゆきます。 その色合いが、雄しべや雌しべの集まる花中央の 春のように明るい黄緑色と相まってとても鮮やかで、 まるでミラノのファッションショーを見ているようなステキさです。 鉛筆デッサンをしながら、そんな観察を進めていると… 「おや?」 微かに甘い、懐かしい香りがこころを和ませました。 でもこの香り、間違いなくどこかで出逢ったことがあるような…? 少し軋んだ記憶の引き出しの数々を ここかな? いや、こっちだったかな? と開け閉めしながら答えを探していた、その時です。 「はっ!こ、これは...!」 なんとそれは…桜餅。 餅じゃなくて桜の花の香りでしょ?とご指摘を受けそうですが、 もっともっと甘い、そう、桜餅そのものなのです。 店先で一目惚れをして、アトリエに持ち帰ったその花。 少し長い帰路の途中で、聞いたばかりのその名をすっかり忘れてしまい、 あぁ、やってしまった!と困っていたところでしたが、 この香りのおかげであっという間にお名前と再会することができました。 もちろんその検索方法は「花」「桜餅の香り」。 一発であまりにもたくさんのページがヒットしたので、 あぁ、桜餅を思い浮かべたのは私だけではなかった!と少し笑いました。 花の名はリューココリーネ。 中でもこちらの薄紫色はカラベルという種類だそうです。 雄しべや雌しべと思っていた部分は「仮雄ずい」というものだそうで それは何?と、そこからまた次の学習へ。 どうやら退化した雄しべというような答につきあたりました。 奥が深いですね。。。植物的にも、日本語的にも、知らないことばかりです。 イタリアから帰国して早や○年。 お留守にしていた数十年の間にできた新しい日本語表現に加え、 今までお目にかかったこともないような植物用語や文化の数々。 日本人として知っていなければならないような知識が 恥ずかしながら一部ゴソっと欠けているので 毎日が新しい事柄との出逢いと勉強に満ち溢れています。 さて、話を植物に戻しまして、このリューココリーネ。 アトリエの庭でもなんとか育てられないだろうか?と調査を続けてみると 元々の産地が暖かな南米との事。 凍結や湿気の多いこの山では残念ながら無理そうです。 そして何よりも問題は…ユリ科の球根植物という点! 植えた途端にイノシシファミリーが大喜びでディナーに訪れてしまいそうなので 栽培は遠慮しておこうかな。 その花言葉は「信じるこころ」。 想像したこともないような現実がニュースに溢れかえっているこの日々が 早く穏やかな平和を、健康を取り戻しますように。 そう願いつつ、そして強く信じつつ、今日も絵筆を握っています。 2020年4月3日 春色の音に包まれた...元箱根アトリエより。 高野倉さかえ