屋根の上が白く凍り キラキラと、まるで星を散りばめたように 朝陽に輝く季節になりました。 12番目の月です。 いよいよマイナス気温もチラチラと登場し始め 山のアトリエでは寒さも本格的になって参りました。 空気が澄んだこの季節。 久し振りに降りた街中は どこもかしこもクリスマスムード。 鈴が鳴る曲を、様々なアーティストが歌い 気がつくといつの間にか 何気なく歩いている私まで 鼻歌交じりの軽い足取りになってゆくのがわかります。 マスクの下で、そっと、微かに歌うクリスマスソング。 すると、なにやら懐かしいパッケージが なんと目の前に山積みになっているではありませんか! パネットーネです! サイズこそかなりギュッと縮小されてはいますが この姿は間違いなくあのお菓子のミニミニ版! オレンジピールやレーズンなどのドライフルーツが ふんだんに練りこまれたこのパネットーネ。 イタリアでよく見ていたものたちは 巨大パンのようなずっしりと大きな姿をしていましたが かなり長く保存できるという利点もあり この時期イタリアではどこの家庭でも1〜2箱は常備されていて 朝食からおやつ、そして夕食後のデザートにまで登場する クリスマス時期定番の万能ケーキです。 そのパネットーネが市場に出回るこの時期。 よく話題に上る質問がありました。 「パネットーネ派? それともパンドーロ派?」 パンドーロは、パネットーネと並び この時期大活躍をする大きなケーキ。 ドライフルーツ満載のパネットーネとは反対に パンドーロの生地はとてもシンプルなシフォンケーキ風。 そして上から見ると可愛らしい星型をしています。 その星型パンドーロ。 パネットーネとの大きな違いは 食べる前にひとつ、大事な儀式があるという事でしょうか。 美しいデザインの大きな箱。 それを開けると、内容物は2つ。 ビニール袋に入った大きな星型のケーキ・パンドーロ本体。 そしてたっぷりとした量の粉砂糖の袋です。 まずはパンドーロ本体を包むビニールを一部開封し 中に粉砂糖を一袋全部、余すところなく投入します。 そしてビニール袋の口を手で硬く閉じ ワイルドに、そしてひたすらに上下左右にシェイク! 粉砂糖が満遍なく行き渡るように そして真冬の凍えた体が温まるほど 真心込めて精一杯シェイクするのです。 ある程度の重さと大きさのあるこのパンドーロ。 それを振り回す作業は容易なものではありませんが 目をつぶってひたすら大きな袋を振り回すこの作業を始めると 「あぁ、今年も12月が来たんだな」と実感し、同時に心がほっこりしてきます。 もう何年使っているでしょう。 年季の入った装いの直火式エスプレッソメーカー。 今日は久しぶりにこれでエスプレッソをいれましょう。 冷凍庫の中で大理石のように固く凍ったバニラアイスを掘り出し エスプレッソを注いで、アッフォガートでも作りましょうか。 薪ストーブで暖まった部屋で食べる、アッフォガートの味。 目を閉じれば、懐かしいあの街が浮かんできます。 「絶対に、絶対に洗剤で洗っちゃダメよ」 思えば、イタリアに住み始めてまず最初に教わった掟は、これだったかもしれません。 どの家庭にも少なくともひとつは必ずある 金属製ポットのような形をした、直火式エスプレッソメーカー「moka」。 初めてそれを手にした時、イタリア人のおばあさんはこう私に言いました。 美味しいコーヒーをいれる秘訣はいろいろあるけれど 何はともあれ、まずは美味しいコーヒーがいれられる「moka」を育てなければいけないとの事。 新しいmokaを買ったら、コーヒーをいれては捨て、そしてまたいれるを繰り返します。 でも絶対に、絶対に洗剤を使って洗ってはいけないのだそうです。 1度でも洗剤を使うと、もう美味しいコーヒーの入れられるmokaに育たないのだとか。 何十年使っているmokaでも、それはもちろん同じ。 決して洗剤を使いません。 友人宅などで外国人の私がmokaを使おうとすると イタリア人の皆さんは必ず、この掟の話をします。 この他にも、イタリアの友人たちがよく口にする「掟」は各種ありましたが 日本人の私には、楽しい発見ばかりでした。 「どんなにお鍋が小さくても、スパゲッティーは絶対に折って入れてはいけない」 「ピザやケーキなどを切り分ける際、ナイフで十字を切ってはいけない」 「ワインをこぼしてしまったら、指につけて耳の後ろを濡らす」などなど。 言い伝えは同じイタリア国内でも地方によって様々で また、家庭によっても少しずつ変わって来るようですが 新しい掟を耳にする度に、まるで秘密の宝物を分け合う仲間になれたような気がして なんだか胸がドキドキしたものでした。 Che la magia del dolce Natale Vi porti pace e serenità. Buon Natale ed uno splendido anno 2022! 皆さま今年もありがとうございました。 美しく穏やかな年末を。 そして素晴らしい新年をお迎えくださいませ。 2022年もどうぞよろしくお願いいたします。 2021年12月22日 アトリエの窓より、煌めく虹色の色彩を込めて。 高野倉さかえ