私の背の高さを超える程のガウラが 未だにわんさかと咲き誇る11月。 今年の気候が特にお気に召したのか このガウラもチェリーセージも例年の倍の大きさに広がり 既に3ヶ月以上も花をつけ続けています。 山の雨風に負けないように支柱に支えられ、陽光に照らされた花々を見ていると そこにはまるで巨大な花束が 冷えてきた大気の中にそびえ立っているように思えて嬉しくなります。 寒さが増し、秋が深まると 週末の山も交通量が増して、行楽シーズンの音がします。 海賊船の汽笛、車やバイクの音。そしてヘリコプター。 そんな音たちがやって来ると、あぁ、湖沿いはお休みの日なんだなと思います。 私には日曜日がありません。 いえ、正しくは、休日としての日曜日がないのです。 イタリアでも日本でも、よく友人から「週末は何をするの?」と聞かれますが この仕事をしていると土日も関係がなく 気がつけばいつも仕事です。 アイディアが豊富に溢れる黄金期に入った時など、さぁ大変。 食事をしていても何か浮かび、突然デッサン。 お風呂上がりにも慌てて紙と鉛筆に向かい 夜眠っていても夢の中で描き続けていて ふと、真夜中の暗闇でアイディアを書き留めたり。 かなり変わった生活を送っています。 そんな画家の毎日は ある意味ではいつもとても規則正しくて でも同時に、ものすごくランダム。 朝から晩まで筆を握っているのはどの季節も変わりませんが 私の場合、描き続けていると必ず どうしても一旦休まなければならない日がやって来るのです。 1つ目は制作中の作品表面の絵の具が どこもかしこも生乾き過ぎる時。 そして2つ目は、アトリエの換気が追いつかず あまりにも絵の具の匂いに包まれ過ぎる時。 そんな時は平日突然のお休みをいただき 愛車の水色のフィアットで、のんびりドライブに出ます。 自然の中を行くあてもなく走っていると 緑の森の住民たちによく出逢います。 シュッと美しい佇まいの鹿たち。 ドスンと大きなイノシシファミリー。 なぜか車の前をジグザグに走ってゆくウサギに モッフリ毛のタヌキやニョロンとしたイタチなどなど。 そんな動物たちと出逢えた日は、胸がドキドキします。 最初は突然の出逢いに驚いてドキドキ。 そして彼らが去った後は、なんだか嬉しくなってドキドキ。 お母さんが子供を連れて森へ帰って行く姿を見た日などは いつまでもいつまでも、やわらかな笑顔が残ってしまうほどです。 自然の多い郊外に住む機会が多かったので イタリアでの日々も、日本での毎日も 動物に出逢えるという点ではほぼ同じ。 ただひとつだけ、日本に帰国して驚いたのは なにより野生の猿との出逢いがあるということでしょうか。 以前のエッセイ(こちらをご参照ください)にもありましたが トスカーナに暮らしていた時代、猿は、道端では決して出逢えない動物でした。 動物園の園内でも、堂々とメインの座を飾るほど それくらい珍しい位置付けの動物が猿だったのです。 その世界に慣れてしまったせいか 日本に帰国してのドライブで、道路脇を歩く生き物が野生の猿だとわかった時は 正直、かなり、感動いたしました。 逆に、イタリアには日本であまり見られない動物も頻繁に顔を出します。 まずはサソリ!(昆虫ですね…) そして… ユッサユッサと長いハリを揺さぶりながら歩く、ハリネズミの皆さんです。 本来、その本体はちいさいようですが 警戒したままの姿で移動していたのでしょうか? 道端で出逢うと 非常に大きくたっぷりとした姿が大きく揺れながら歩くように見え、驚きます。 そんな野生動物たちとの遭遇に注意を促す、道路標識の数々。 日本ではそのバラエティーの豊かさが目を楽しませてくれますが イタリアではどこでもほぼ2種類。 「鹿」と「牛」のマーク以外あまり見かけません。 羊飼いの大移動に遭遇した時も モフモフの羊毛に囲まれながら見た標識は、なぜかどこも牛のマーク。 牛なんていないゾーンなのに不思議だな…と思っていたところ 生まれて初めての運転免許を手にしたトスカーナの教習所で ようやく納得の答えが出てきました。 その2種類の動物標識にはそれぞれ意味があり 鹿のマークは、野生動物の飛び出し危険区域。 そして家畜などの多い地方では牛の標識が設置されているとのこと。 なるほど!だから羊だらけのゾーンでも牛マークだったのですね! そこで、ふと、思いました。 日本で見る様々な動物注意の標識は、もしかして国全体の交通標識ではなく その地方のオリジナルだったりするのでしょうか?? 秋の雨がリズミカルに窓を叩く今日。 あちこちで出逢った動物たちのことを思い出しています。 羊飼いの多かった、ハーブの香りに包まれたあの地方。 そしてあの海沿いの森の動物たちは、今頃どうしているのかな? 2021年11月9日 秋が日に日に深まる…山のアトリエより。 高野倉さかえ