新しい年を感じるもの。 年明けの瞬間の夜空を彩る大きな花火たち。 門松、鏡餅、しめ飾り。 空からやって来る駅伝中継ヘリの爆音。 そして... お正月の我が家には 一風変わった風景が煌めいています。 ...あれっ? クリスマスツリー!?? イタリア式の我が家のクリスマス飾りは 巷のお飾りたちよりも、毎年ちょっぴりだけ長生き。 新年を迎えて6日まで、室内を彩っております。 なぜ6日までかというと... それは"Epifania(エピファニア)"があるから。 イタリア時代、クリスマスの行事は長く 24日のイブのディナー、25日のランチ、ディナーと 26日も聖ステファノの日という祝日で 巷ではみなお休み。 そして煌びやかなクリスマス飾りはその後 そのまま年を越え 1月6日のEpifaniaを迎えます。 「L'Epifania tutte le feste porta via.」 この時期になるとよく聞く、この諺。 そこには興味深い意味があります。 クリスマス時期によく見かける 暖炉やベッド脇に靴下をぶら下げておく風習。 そしてクリスマスの夜に サンタさんが煙突から降りて来て 良い子にはプレゼントを入れて行ってくれる...。 でもイタリアで ぶら下げられた靴下たちにプレゼントを入れる役目は なんと、サンタクロースではありません。 そしてその時期も、12月ではなく1月です。 時計が夜中の0時を告げ、1月6日の日を迎えると まるで魔法使いのような装いのお婆さんが どこからかホウキに乗ってやって来ます。 その名は「Befana(べファーナ)」。 煙突からゆっくりと室内に入ると 良い子の靴下の中にはお菓子を。 悪い子の靴下には真っ黒な炭を入れて 去って行くのです。 昔は本当に炭が入れられたりしていて 新年早々泣きじゃくった子もいたのでは? というこの伝統行事ですが 最近では炭にそっくりな色や形のお菓子が たくさん売り出されているので、大丈夫。 一瞬ドキッとはするものの どの子も確実にお菓子を手にする事ができるようです。 ...あれ? とすると、クリスマスの夜 サンタさんはイタリアに寄らないの?? そう疑問に思う皆さんもいらっしゃる事でしょう。 でもご安心ください。 サンタクロースはもちろん、イタリアにも立ち寄ります。 という事で、なんと、イタリアの子供たちは 冬休みの間に2回も嬉しいプレゼントをもらうのです。 しかもご家庭によっては べファーナもサンタに負けじと奮発して おもちゃやゲーム機を運んで来ることもあるようで 子供たちにはなんとも嬉しい限りの年末年始です。 ところで皆さま フィレンツェのウフィッツィ美術館に飾られている ダ・ヴィンチの未完の大作「東方三博士の礼拝」をご存知でしょうか? この1月6日という日はまさに 東方から3人の賢者が 星に導かれベツレヘムにやって来たその日です。 不思議な偶然だな...と思いきや どうやらべファーナの起源はまさにここにあるようで 宗教的な背景からこの伝統が生まれたという見方が強いようです。 星に導かれた3人、メルキオール、バルタザールとカスパールは ベツレヘムに向かう道の途中で出逢ったひとりのお婆さんに道を聞き どうせなら一緒に行かないか?と誘います。 その時はうっかり誘いを断ってしまったお婆さん。 ですが、彼らが見えなくなってしまうとすぐに後悔して カゴいっぱいのお菓子を奉納品として用意しながら 彼らの後を追い始めます。 周囲のドアを叩いては 「3人を見なかったか?」 と住人に尋ね回ったものの結局有力な情報は得られず ベツレヘムに向かった3人に再び追いつく事はありませんでした。 べファーナのお話はイタリア各地で諸説ありますが 一説によると、そのお婆さんが 3人を探す道々で出会った子供たちに カゴのお菓子を分け与えたことが この伝統の始まりではないか?とも言われています。 1月6日、エピファニアの日。 べファーナが空からやって来て 靴下に何かを入れてゆく日。 そしてクリスマス飾りをキレイに持って行ってしまって 賑やかな冬のお祭りが終わる それはホリデイシーズン最後の日。 アトリエ窓の外は、雪、雪、雪に染まりました。 真白な粉雪が庭に舞い踊る中 我が家では恒例の、クリスマス飾りのお片付けです。 皆さま、2022年もどうぞよろしくお願いいたします。 2022年1月6日 キーンと澄んだ空気の...アトリエの窓より。 高野倉さかえ