3月。 雪の静寂も溶け 大気も少しずつやわらかに色づいてゆく...3月。 気温も2桁に届く日が多くなり、庭を歩く心にも余裕が出てきます。 春のかけらがあちこちに見え始めるこの季節には 生まれたての緑色が美しく姿を現します。 茶色い大地からまず顔を出すのは、若々しい薄黄緑のフキノトウ。 冬の間は「もしかして枯れてしまったのでは?!」と とても心配していた芝桜の葉たちも緑を取り戻し始め ただの茶色い棒と化していた紫陽花の茎の先々にも 葉っぱが生まれる前の固まりが見え始めてホッとします。 ウグイスも歌い始めるこの月。 でも今年の3月は、いつもとちょっとだけ違います。 なぜなら... かれこれもう1ヶ月も、どこからともなく毎日通って来てくれる かわいいキジのメスが庭にいるから。 そう、先月のエッセイ写真に登場している ひょうきんなステップで雪の上を歩く、あの子です。(笑) 毎朝、窓から外を見ると、まるでウチの子のようにもうそこにいる。 雨の日も、風の日も、全く怯まずにやって来るその子。 様々な茶色のバリエーションが美しい模様を織りなすその羽根は まだ冬の色を残すこの庭に、ピッタリと同化する優れた迷彩色。 じっとしていると、一見どこにいるのか分からないほどですが ようく目を凝らしてみると 地面の茶色の表面が、なにやらポヨポヨと動いている箇所があるのです。 ふっくらと丸く茶色いその鳥は 地面をせわしなくついばみ、夢中でお食事をしていたり 暖かなお天気の日には フカっとさらに大きく膨らんだ姿で、日光浴をしているのがわかります。 春の始まりの陽光を楽しむその姿はあまりにも丸く 大きな大福のようにぽってりと、あぁ、なんと幸せそう! 窓から眺める私の心まで、ホッコリと暖かく癒されています。 日々欠かさずやって来ては庭で丸くなっている、そのメスのキジ。 あまりにも顔馴染みになってしまったので、名前をつけました。 彼女の名は、キジマルコちゃん。 それからはいつも、マルちゃん、マルちゃんと呼んで仲良くしています。 そのマルちゃんがある日、ビビッドな色彩の彼氏を連れて来ました。 黄緑から青緑、濃紺から紫へと流れる色のバリエーションは 陽があたるとメタリックに輝く光沢色。 そして顔部分を覆う、彩度の高い激しい赤。 茶褐色迷彩のマルちゃんとは正反対に どこにいてもすぐに目に付く、彼氏の羽のこの眩しい色合い。 それはまるで全く種類の違う鳥のようで 見ていて改めて不思議に思います。 自然の作り出す色にはそれぞれキチンと計算された意味があるというけれど それにしても、スゴイ! それからというもの、マルちゃんとその彼氏は よく2羽で庭を歩き回っています。 最初はかなり遠くを歩いていたふたりの距離も 少しずつ、少しずつ、日を追うごとに近くなり 今では仲良く並んでエサをついばんでいることさえあります。 初日はキジ助に飛び蹴りをくらわせていたマルちゃんですが キジ助のラブコールに少しだけ、心が動いてきたのかもしれません。 今までこのアトリエの庭では シジュウカラ、ヤマガラ、メジロといったちいさな野鳥たちが 子育てをしては旅立っていきましたが 今年はもしかすると、マルちゃんの子供たちが見られるのかも? そんな期待を胸に、庭にやって来る今年の春の色を見ています。 それにしてもこのふたり あぁ...なんて丸いんでしょう! 一度あのふかふかを抱っこしてみたいと思うのは、私だけでしょうか。 2022年3月18日 春の音が聞こえる...アトリエの窓より。 高野倉さかえ