薪の準備、澄んだ空、そして真白く凍る車。 キーンとした大気は、現在のところマイナス6℃まで下がり 車のエンジンをかけても水温は低い水準を完全キープ。 車が解凍するまで、車内でフルに防寒着を着たまましばしの待機です。 そこで感動を呼んだのが、フロントガラスに張る氷の紋様。 寒さに凍えながら見るその姿はとてもとても綺麗で 今にもここから童話が生まれそうな輝きです。 12番目の月。 今年も美しい、冬の色に満ちています。 そんなある日。 少なくなった食料の買い出しに、愛車のFIATで山を降りると ドライブ中のダッシュボードが なにやらいつもより賑やかになっている事に気付きました。 「あれ?こんなにランプついてたっけ??」 見ると、ABS、ビックリマークなど、 前にも見た事のあるあの数々の警告ランプが まるでクリスマスツリーのイルミネーションのように輝いているではありませんか。 ということで、いつもお世話になっている海の街の車屋さんに 今回も修理をしていただくことになりました。 ホイールスピードセンサー交換…今回で4回目でございます。 せっかくなので他の部分もいろいろチェックをしていただき 以前から少し気になっていた不思議なカタカタ音も見ていただいたり オイル交換をしたりと 大好きな愛車にも今年はクリスマスプレゼントです。 しかしそのカタカタ音。 どうやら右側後方から来ているとまではわかったものの 結局原因不明のまま謎は深まるばかり。 気になるといえば気になりますが 様々な音がするのはある意味イタリア車の証。 走行には全く問題がないということも担当メカニックさんから説明されましたし とりあえずは気にせず、のんびり行くことにいたしましょう。 「手がかかるほど愛着が湧くよね」 イタリア在住時代、現地の友達はよくそう言っていました。 日本より圧倒的にマニュアル車が多いのも、そういう理由なのかもしれません。 イタリアの車は比較的よく壊れる。でもかわいい。デザインが抜群に美しい。 オートマの車は操作がとても楽。でもギアを自分流に操りながら運転したい。まるで乗馬をするように! そう熱く語る彼らを見て、あぁステキだなと思いました。 しかしある日、その友人たちが突然言い出したのです。 「日本人なのに何故FIATを買ったの? トヨタやニッサンの方が断然丈夫なのに!」 話を聞いてみると、どうやら当時流れ出したテレビCMが原因のようでした。 「トヨタをお買い上げいただければ、故障した時どこまででもお迎えにあがります。」 新車を購入するとその後数年間、これでもかというほどの手厚い補償がついて来て もしどこかで走行不能に陥っても大丈夫。 イタリア国産車のFIATに比べて外車の日本車は価格が高く、巷にもまだ少なかったその当時 日本車のイメージアップにと、各社は様々なキャンペーンを打ち出していたのでした。 「あんな事ができるなんて、よっぽど壊れない自信があるんだよ! FIATがそんな事したらすぐ倒産しちゃうからね。(笑) これからの時代はやっぱり日本車だよ、さかえ!」 今まで国産のイタリア車しか話題にしなかった友人たちは 瞬く間にこの状態になりました。 確かに、路上の故障車を見かけると 新車も中古も、そのほとんどがイタリア車のエンブレムをつけていました。 FIATは同じタイプの車でも個体差が激しいとも聞いた事がありますが 細かい気配りの多い日本の技術は 自動車製造においてグレードが高いのかもしれません。 そのイタリア車FIAT。 初めてキーを手に入れたのは、かなり年代物のFIAT Tipoでした。 当時のフィレンツェには「La Pulce」という様々な中古品を扱う情報誌があり 何かを買う際には、まずその雑誌をめくるのがフィレンツェ人の習わしのような儀式。 その雑誌をふんだんにチェックして見つけた掘り出し物が ほとんど走行距離が進んでいない、FIAT Tipoの中古車です。 電話でオーナー家族に問い合わせをし、約束をして尋ねると 年配のご婦人が笑顔で迎えてくださいました。 聞くと、ご主人が使っていたその車は すぐ数百メートル先のバールに通うためだけにしか使われておらず かなり古い車にもかかわらず、内装も外装も大変きれいなものでした。 格安で購入し、ようやく便利な生活になった、ある日。 友達とみんなで走行中の車の中に、何やら聞き慣れない騒音が流れて来ました。 「…どこかで何かが…カラカラって鳴ってない?」 エンジンも快調、警告灯も大丈夫。 気のせいかな? それとも石畳のガタガタ道を走っているせいかしら? そんな話をしながら再び走り出すと やはり明らかに、どこかで何かがカラカラ鳴っている。 耳を澄ますとそれは、何か金属的なものを引きずって走っているような感じの音。 路肩に駐車し、全員で一斉に車の下を覗き込むと、そこには… なんと金属製のものがぷら〜んと下がっているではありませんか。 「こ、これはっ!」 老朽化した留め具が緩んでぶら下がり始めたクラクション部分を どうやら引きずりながら走っていたようです。 何より驚いたのは、初めて目にするクラクションというパーツが 思った以上に楽器のような形をしていた事。 「これって本当にラッパみたいな形なんだね〜」 車のことをほとんど分かっていない私のそのトンチンカンなコメントが みんなを妙な大爆笑に導いたことを覚えています。 道端で笑い転げる東洋人の私とイタリアの仲間たち。 通り過ぎる人々が、にこやかな笑みを浮かべては去ってゆきました。 笑顔がたくさん浮かんで来る、この12月。 手がかかるほど可愛い、この愛車FIATに乗り 足りなくなった画材や食料の調達に山を降り、街へと向かいます。 クリスマスソングの流れる世界。 空色の車と共に駆け抜ける冬の景色を、いつか作品の形にできますように。 Che la magia del dolce Natale Vi porti pace e serenità. Buon Natale ed uno splendido anno 2023! 皆さま、今年もありがとうございました。 美しく穏やかな年末を そして健康と笑顔に満ち溢れた素晴らしい新年をお迎えくださいませ。 2023年もどうぞよろしくお願いいたします。 2022年12月24日 クリスマスカラーの溢れるアトリエより。 高野倉さかえ