それは朝の5時。 「フェ〜ッフェッ!!」 窓の外からキジの鳴く声が晴れやかに響き渡ります。 昨年から毎日この庭を訪れるキジ助は 眩しい羽色もさらに美しく、空に向かって春の雄叫びに夢中です。 彼の鳴かない秋冬は、いつ庭に来ているのかわからないけれど 春が来たとなれば話は別。 まるで私にエサを求めるように、毎日早朝出勤しては高らかな声で歌い出します。 「...はいはい、わかりました。」 眠い目を擦りながらカーテンを開けると そこには派手な色彩の大きな鳥がこちらを凝視しながら 今か今かと、軽く足踏みまでしながら私を待っています。 慌ててパジャマに上着を羽織り、サンダルをつっかけ玄関ドアを開けるその時。 音に驚き、大抵の野鳥は一斉に飛び立ってしまうのですが このキジ助はもう大丈夫。 警戒するどころか、ドアの音でこちらに駆け寄ってきます。 嬉しそうに走り寄るその姿はもはや野生でなく、まるで我が家の飼いキジのような雰囲気さえ醸し出しています。 ホームセンターでみつけたバーディー(Birdy)という名のエサ袋を抱え 1段1段、半分崩れ落ちそうになっている庭への階段を降りて行きます。 陽光に映える、vividな色合いのキジ助。 その向こうには、メスのマルちゃんも来ています。 「フコッ!フコフコフコフコッ...♫」 朝ごはんが嬉しいのでしょうか、うっかり声まで出てしまっているキジ助の周囲は あっという間に、他の野鳥たちでいっぱい! 山の早朝。野鳥王国の景色が、本日も私に笑顔を運んでくれます。 そんな3月。 今月は、本当にたくさんの皆さんの笑顔に出逢う事ができました。 隔年でお邪魔している丸善丸の内本店でのこの個展も、早いもので今回で10回目。 イタリアから大荷物で一時帰国をし展示の準備をしていた日々も、懐かしく思い出されます。 古い石畳の街の雑踏、どこからか流れくるハーブの香りと賑やかな笑い声。 いつもの郵便配達。週末にやってくる移動式の魚屋さん。 薪ストーブのパチパチいう音。そして濃厚なエスプレッソ・コーヒー。 何もかもを眩く彩る太陽の下、どこまでも続くオリーブ畑や葡萄畑にたくさんの色彩をいただきながら制作を続け 時折、日本に一時帰国をしておりました。 その際に展示を行うようになったのが今お世話になっている丸善ギャラリー、当時は日本橋本店での展示が最初でした。 遠い昔、それはまだ私が高校生だった時代。 開いた教科書の夏目漱石の文章に、花々のインスピレーションがふわっと幻想的に浮かび 時間を忘れて制作をした覚えがあります。 その漱石と、とても縁が深いというこの丸善。 セピアのインクを好んだという漱石の姿を想いながら この丸善ギャラリーで作品を発表し続けられる幸運を、胸いっぱいに感じました。 皆さま、今回も丸善丸の内本店ギャラリーでの個展に足をお運びいただき、誠に有り難うございました。 たくさんの、本当にたくさんの皆さまに作品をお楽しみいただく事ができました今回の展示は さらに多くの方々との新たな出逢いを運び、そして大きなご好評をいただきながら幕を閉じました。 静かな山のアトリエに戻り、思い返すその目まぐるしい丸の内での毎日は 今なお、私のこころを暖かくそして優しい感動に染め続けています。 日々暖かさの増すこの3月ですが、山のアトリエの桜はまだまだ蕾もちいさく そのやわらかな花びらが開くのは、今年もゴールデンウィークあたりでしょう。 しかしアトリエには、皆さまからいただいた暖かな笑顔と言葉と花々の数々が 美しい色彩の春を輝かせています。 Vi auguro una splendida primavera piena di colori meravigliosi.🌸✨ 皆さま素晴らしい春をお迎えください。 ありがとうございました。 2023年3月22日 花々の香りのアトリエより、両手いっぱいの感謝を込めて。 高野倉さかえ