山にやって来る風が、ひんやりとした冷たさをなくし ゆっくりと暖かい季節へと向かい始めています。 あちこちから新しい緑が生まれると同時に、庭はワイルドさを増して行き ついこの間まで茶色一色だった地面が、様々な草花に包まれ始めています。 そんなある日の事。 制作の合間の気分転換に、積もった枯葉のお手入れでもしようかしらと 庭の枯葉率の高い場所へと足を運ぶと 何やら珍しい色のものが目に入りました。 赤みが強い茶色の、丸いものがふたつ。 日光を浴びて少しツヤっとしています。 「キノコ…かな?」 しっとりとした山の空気に包まれているこの庭には 日々様々な色柄のキノコが育っては消えて行きます。 今回もきっと、新種のキノコの登場だろうと思いつつ近づいてみると... 半球型をしているそれは、キノコのようにぬるっと柔らかいと言うよりは どちらかというとコツッと硬い表面をしていました。 「…おや?」 それはなんと、ちいさなちいさな卵の殻でした。半分に割れています。 「おぉ〜っ!」 聞くと、大抵の親鳥はヒナが孵化した後の殻をわざわざ巣から遠い場所に捨てに行ったり カルシウム補給なのでしょうか、その場で食べてしまったりするそうです。 この赤茶色の卵の殻も、親鳥が遥々、我が家の庭まで捨てに来たのでしょう。 それにしても妙な色です。 今まで様々な野鳥の卵や殻を目にしましたが、このような赤茶は初めて見るタイプです。 陽光に輝くそれはまるで、半分に割れたチョコボール! ダークではなく、甘味が多いミルクチョコレートの方です。 「う〜ん…一体誰の卵だろう???」 気になって調べてみると、そこには嬉しい発見がありました。 誰もがチョコレートを連想する色だったせいか、ネット検索ですぐにヒット! なんとそれは、ウグイスの卵でした! サイズは私の人差し指の爪ほど、まさにチョコボールくらいの大きさです。 1cmあるかないかというようなちいさなちいさな卵。 写真を撮るのも一苦労です。 そして初めての出逢いにドキドキ。心が躍りました。 アトリエに戻り画像をチェック。 そしてウキウキした気持ちのまま再び制作を始めました。 でもやっぱりあの卵の殻が頭から離れません。 また見に行きたくなりその場所へ行くと... 「あっ!」 ついさっきまで綺麗に半分だった殻が、もうすっかり粉々です。 我が庭を訪れる野鳥の中で一番大きいカップル、キジ助とマルちゃんも来ていたようなので もしかするとちょっとつまんで行ったのでしょうか? あの時すぐに拾って、瓶の中にでも保存しておけばよかった。。。 でもいいの。自然にかえったのだから。 自分にそう言い聞かせる、6月のある日の出来事でした。 そして初めて出逢ったウグイスの卵を思いながら ふと、チョコボールを検索し、再び笑顔に。 金のエンゼルなら1枚、銀なら5枚でもらえるという 当時子供たちの憧れだったあのおもちゃのカンヅメ。何十年も経った今でも健在なのですね。 しかもかなり...パワーアップして!(笑) 水の季節。 ウグイスの美声が響き渡る箱根山を降りると 田植えが終わったばかりの水田のあちこちで、カエルたちの大合唱が既に賑やかです。 新しい生命が、そこここで歌い始めています。 2023年6月8日 水に潤う空の...アトリエより。 高野倉さかえ